サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

サラダ坊主風土記 「仙台・松島・塩釜」 其の一

昨晩、二泊三日の仙台旅行を終えて千葉へ帰ってきた。備忘録を認めておく。 仙台は、数年前に訪れた金沢と似通った雰囲気のある土地だった。江戸時代、雄藩として栄えた城下町としての歴史を持ち(加賀藩前田家の金沢城・仙台藩伊達家の青葉城)、文化的な成…

Cahier(カミュのヒロイズム・仙台旅行)

*先日、アルベール・カミュの「ペスト」を読んだ感想を記事に纏めて投稿したところ、以前から、そのブログを拝読させて頂いているid:filmreviewさんから、印象的なコメントを頂戴した。 私はカミュの「ペスト」を、ヒロイズムに対する否定の身振りとして捉…

「不条理」の困難な形象 アルベール・カミュ「ペスト」に就いて

先刻、アルベール・カミュの「ペスト」(新潮文庫)を読み終えた。 この作品を単純なヒロイズムの物語であるとか、或いは「不条理」に対する戦いの物語であるとか、そういう風に総括するのは、一見すると尤もらしいけれども、きちんと読めば、寧ろこの作品が…

Cahier(七十二回目の終戦記念日・「記録」の重要性・米国の年老いた戦闘機乗り)

*昨日は七十二回目の終戦記念日ということで、先の大戦に関連する報道番組が数多くテレビの画面に映し出されていた。夜にはNHKの総合テレビで「本土空襲」と銘打ち、太平洋戦争において米軍が展開した、日本に対する本土空襲の実態を解明するドキュメン…

Cahier(知識の偏り・詩作)

*銘々の人間が、個人的な興味を懐く対象というのは様々であり、同じ動物好きでも、犬好きや猫好きや鳥好きや熱帯魚好きなど、その愛情の矛先は多様な領域へ向かい得るものである。そういう関心の持ち方というか、精神的な志向性のようなものの偏り、特徴は…

詩作 「ホテル」

雨が上がった後の 夜の駅前は 艶やかな光に満ちている 無数のタクシーが列を作り 夥しい数の人間が 好き勝手な方向へ歩いている 私たちは 手をつないで 光の隙間を狙って 忍び足で進んでいく 知り合いにみつかったら 気まずいからね 西船橋の夜は騒がしい だ…

詩作 「新世界より」

壊れものをあつかうように 優しく指先に神経をそそいで 大事に守って 今日まで辛うじて 綱渡りには失敗せずに 来たつもりでした けれど やはり運命には逆らえないのでしょうか 掌中の珠 という表現があります そうやって大切に慈しんだとしても FRAGILEとい…

詩作 「削除しますか」

削除しますか(はい・いいえ) 躊躇は あなたを不幸にしますよ 過去は過去 あなたはいつまでも思い出を大事に抱きしめて その香りに顔を埋めているけれど 過去は過去 過ぎ去ったものたちは すでに命をもたない 振り返ることは あなたを不幸にしますよ 履歴を…

詩作 「勿忘草の歌」

若草の萌える平原 緩やかに流れる風の音 私たちは絶えず この大地と共に暮らしてきた この草原を渡る風の歌と共に 私たちの喜怒哀楽は 記憶の箱舟として 川面を漂いつづける 手をつないで 私たちは多くの街角を歩いた すべての街路には 思い出があり なにか…

詩作 「カッターナイフ」

それは無駄な 悪あがきというやつで 私はいつまでも 携帯が青く光るのを 唇をかんで待っている 鳴らない電話に 不意に光りと音が よみがえるのを 私は平凡な生活の 様々な場面で待っている あきらめられない魂が この胸の奥に いつまでも熱い光りをたたえて…

詩作 「国境線の突破」

金網越しに まぶしい太陽が見える 熱い風がカラダを包んではなさない 喉が渇いて死にそうだ 記憶が飛びそうだ この国境線の金網が いつまで経っても俺とあいつを隔て続けるんだ 車は大破してゴミの塊だ 眠れない夜はマリファナタバコが肺を焦がす ハンドルを…

詩作 「ワット・オーム・ボルト・アンペア」

稲妻がひらめく 暗い夕空を鉤裂きに 光りが渡る 突然の雨に慌てふためいて あなたは軒先に隠れる 何を売っているのだか知れない 個人商店の雨樋のおと 都会の孤独は深刻だ あなたはいつまでもそれに慣れることができない 迷宮のような地下鉄を乗り換えるとき…

詩作 「幸福な星の物語」

好きであることは 様々な苦しみを呼び寄せる 魔法のようなもので 私たちは時にその変動に戸惑う (好きであることは我々を混迷に導く) 私たちの感情は常に劇しいアップダウンをくりかえす 「さよなら」と「離れたくない」の はざまで 私たちは透明に呼吸し…

詩作 「スイッチ」

責めても無駄でしょう 誰かがそれに触れたのですから ブレーカーが落ちるように 使用量が容量を超えたのです あふれだしてしまったのです 覆水 盆に返らず 掌を返したように あなたは顔を背けます その横顔に 水銀灯の光がにじむ 心変わりという 美しい言葉 …

詩作 「親子」

それは 互いに分かり合えないものを指す 隠語です 憎しみの類義語です 友情の対義語です 友人はとりかえられる(しかも随意に) 腐れ縁は途切れない 古いゴムホースみたいに 民法的規定にこだわり続ける(旧弊) 女は捨てられるが(きちんと謄本に×がつく) …

詩作 「声が聴きたくて」

さびしいという言葉が 何故あるのか さびしいという感情が 何故あるのか ときに私たちは見失う 重力が 世界を地上に繋ぎとめるように 何かが私たちを 引き寄せあい 遠ざかることを禁じる さびしさの痛みが 胸の奥をえぐるとき 私たちは世界から浮き上がり 月…

詩作 「咆哮」

そのとき 不意に電車がとまり 私は世界の裂け目を 覗いたような気がした 普段と変わらぬ 午後の景色のなかに 変化が訪れた 線路は軋み 緊急の放送があらゆる場所で 白目をむいて 奏でられた 地球はいよいよ 終わりを迎えるのだろうか 電車の扉が開くまで時間…

詩作 「八月六日」

夏でした 地面には 陽炎が揺らぎ 私の自転車は じりじりと焼けて熱く 空は青く 何も過不足のない 輝くような夏の一日でした 空が不意に光り 熱い風が劇しい怒りのように 大地へ落下した 私はそのとき九つの少女で 私の自転車は買ってもらったばかりの 眩しい…

詩作 「悪意」

黄昏の校庭に 人影は乏しい 見捨てられた景色 見捨てられた時間 そして 見捨てられた私へ 熱いシャワーのように 降りそそぐ悪意 カッターナイフは スカートを切り裂く為のものではありません 絵の具は ブラウスを汚す為のものではありません 携帯のカメラは …

詩作 「苦しさの涯で」

テールランプが 紅くにじむ 喫茶店のガラスが 曇っている 待ち合わせの時刻の 少し前に プラットホームへ滑りこんだ電車の音が 天井を隔てて 伝わってくる わたしの胸は 予感にふるえる あなたの笑顔を 真新しいキャンバスに 美しく描きだす 逢いたいのは 虚…

詩作 「グレーゾーン」

夕闇は 音を立てない 無言で 一日の終わりの 疲弊のなかに 人々を佇ませる 昨夜 交わした約束は たちまち裏切られる 灰色の関係 灰色の距離 あなたは指折り数えている 幸福な未来が その小さな掌に 触れる瞬間までの 時間の長さ わたしは 一日の終わりの 疲…

詩作 「駅」

電車が 風を巻いてはしりこむ 線路からホームへ 舞い上がる冬の風と 人々のざわめき 夜は一目散に 闇へ溶けていく まだ帰りたくない まだ離したくない つないだ手を からめた指を まだ今は ほどきたくない 秒針が回る 黙々と 残酷に それまで他愛のない会話…

詩作 「しらない世界」

海原は 最果てをしらなかった どこまで 突き進んでも 終着駅は見つからない 明け方まで 浜辺で火を焚いて 酒を浴びていた 車座の男たちも 不意に遠い眼差しで 夜空を見上げた 北極星を 確かめるために あなたの本心が どの波間に揺れているのか 誰もしらない…

詩作 「秘密」

夜の闇に まぎれて すべて隠してしまいましょう 深夜の駅前の道を わたしもあなたも 靴音を殺して歩く 野良猫が 無数の敵意に身構えるように 露見することを おそれて わたしたちは綱渡りのように 夜の暗がりに爪先立つ 秘められた 感情が 少しずつ ビーカー…

詩作 「所有」

長雨に煙る空 遠くに光る ビルの赤いランプ 十一月の街は少しずつ冷えていく こころが少しずつ冷えるように 愛することと 支配することの間に 見いだせなくなった距離を 探し求めて 動く指先 誰かを所有すること 愛しいあなたを所有すること 所有することで …

詩作 「いいえ」

いいえ、それは星ではありません それは夏草の葉叢で生まれた若い蛍火 いいえ、それは風ではありません それは夕暮れの家路を歩くあなたが 一日の労働を終えた溜息の音 いいえ、それは答えではありません それは連綿と続く暮らしのなかで あなたへの関心をか…

根源的性質としての「弱さ」

以前、長谷川豊という人物が自身のブログに、人工透析患者に対する誹謗中傷の記事を投稿し、社会的な問題に発展したことがあった。彼の言い分は、医者の勧告を無視し、節制を怠って発病し、揚句の涯に人工透析を受けることになるのは患者としての罪悪だ、と…

Cahier(悪夢・離婚・未熟・カフカ)

*先ほど、寝つきの悪い子供に寄り添って眼を閉じていたら、疲れに誘われるように知らぬ間に眠りに落ちていた。そして、久々に悪夢を見た。妻から別れを告げられる夢だった。理由は分からない。詳しい経緯も、具体的な科白も、早くも記憶の彼方に霞み始めて…

Cahier(夏・花火大会・ファミレス・交通事故)

*八月に入ってから仕事が忙しく、なかなかブログの更新に着手する余裕を確保することが出来なかった。カミュの「ペスト」を読み終えたら、纏まった感想記事を認めたいと考えているのだが、未だ300ページにも達していない。なので、断片的な雑録を書き記…

Cahier(アルベール・カミュ、ミラン・クンデラ、新入社員、ドラゴンクエスト)

*フランスの作家アルベール・カミュの小説「ペスト」(新潮文庫)を読んでいる。未だ200ページ弱の段階なので、纏まった感想を綴れる状態ではない。翻訳が、日本語として熟していなくて、意味を追うのに難儀するが、余りに滑らかな日本語であっても、却…

「断片化」としての小説(カフカの「中断」、メルヴィルの「集積」) 2

前回の記事の続きを書く。 「ロゴスの単一性」を重要な特質として帯びる「物語」=「ロマンティシズム」の堅牢な秩序に対して、様々な手段を駆使して叛逆と簒奪を試み、単一的なロゴスの彼方に「世界の本質的な多様性」を見出そうとするのが、小説的なリアリ…

「断片化」としての小説(カフカの「中断」、メルヴィルの「集積」) 1

池内紀の編輯した「カフカ短篇集」(岩波文庫)を読了した。覚書を認めておきたい。 フランツ・カフカの小説を読むとき、読者は必然的に作品の「完結」に就いての思索に導き入れられることになる。単に彼の遺した三つの長篇小説(「失踪者」「審判」「城」)…

夢に似た捩れ 「カフカ短篇集」を巡る雑録

最近、ドイツ文学者の池内紀氏が翻訳と編纂を担った「カフカ短篇集」(岩波文庫)を少しずつ読んでいる。淡々とした筆致で、波瀾万丈の壮大な物語とは程遠い、素描のような掌編が並んでいる。どれも独特の味わいがあり、不気味さと諧謔とシニカルな省察が緊…

虚実の迷宮 ウンベルト・エーコ「バウドリーノ」に就いて

ウンベルト・エーコの「バウドリーノ」(岩波文庫)は、ヨーロッパの歴史や思想に関する該博な知識を素材として組み立てられた奇想天外な冒険活劇である。この小説の奥深い含蓄を、西洋の文化に余り馴染んでいるとは言い難い私のような人間が精確に理解する…

「意味」からの遁走 中上健次に就いて 4

「枯木灘」という作品が、主観的な抒情性の閉域を打破する為の企てを含んでいると考えられることに就いては既に述べたが、その目論見が十全に成功しているとは言い難い。少なくとも作者は「枯木灘」の緊密な出来栄えに最終的な結論を見出したとは考えていな…

「意味」からの遁走 中上健次に就いて 3

「枯木灘」において試みられた「固有名の導入」という措置は、絶えず「秋幸」との関係性の内部において表出されていた世界の諸相を、主観的な抒情性の閉域から解放する働きを担っている。無論、単に登場人物に「名前」を授けるだけで、主観的な抒情性の閉域…

「意味」からの遁走 中上健次に就いて 2

だが、自分の母親を「母」ではなく、一個の独立した人格として客観的に把握するような認識と思索の形式が、或る抽象的な努力を要するのだとしても、つまり「母親」を「母親」として捉えることの方が遙かに個人の体感としては「リアル」なのだとしても、そう…

「意味」からの遁走 中上健次に就いて 1

中上健次の出世作である「岬」の世界は、土俗的な湿り気に満ちている。その湿り気が作中に充満する「情緒」の派生的な効果であることは論を俟たない。中上健次が「岬」において描き出す光景は、或る一族の閉鎖的な側面であり、その描写が及ぶ領域は極めて限…

批評は常に出遅れている(無論、それは罪ではない)

批評というものは、必ず何らかの対象の存在を必要とする。あらゆる批評的言説は常に、批評を受ける対象の現前を要請する。それは意識が常に「何かに就いての意識」であることに似通った消息である。 だが一方で、批評もまた自立した作品として存在することが…

サラダ坊主風土記 「両国」

先日、妻と二人で久々に外出した。幼い娘は、義母が一日預かって面倒を見てくれた。有難いことである。そういう協力がなければ、小さな子供を抱えた夫婦が二人きりで外出する機会を得ることは、とても難しい。 そういう貴重な機会であるのに、事前に綿密な計…

ラッダイトの断末魔(Singularityの問題)

人工知能(artificial intelligence、AI)の急激な発達に伴い、様々な労働の現場において、機械が人間の代役を務めるようになるだろうという予測が、昨今の世間を賑わせている。代表的な事例としては、米グーグルによる自動運転技術の積極的な開発が筆頭に挙…

批評と創造(或いは、その「融合」)

考えることは、所謂「創造性」とは無縁なのだろうか。 そんなことはない、寧ろ考えることこそ、真の創造性が成り立つ為には不可欠の条件なのだと、直ちに反駁してもらえるだろうか。だが、この問題は入り組んだ観念によって構成されていて、厳密に検討を始め…

「ツバメたちの黄昏」 四十四 離島の淑女

南洋の気怠い静寂と不穏の渦中に埋もれた昔日の墓標のように、その小屋は切り払われた樹林の一隅へ佇んでいた。私たちの訪問を待ち受けていたとは思えないが、少なくとも無惨な遭難者である私たちにとっては、その人工的な建築物は一種の運命的な恩寵のよう…

「ツバメたちの黄昏」 四十三 真昼の静かな小屋

私たち護送団の一部が、砂浜から海岸線に沿って進む東西の二つの見晴らしのいい経路から除外され、何処に危険な野獣や異族が潜んでいるかも知れない不穏な叢林の中を分け入る経路へ割り当てられてしまったのは、確かに不本意な事態ではあったが、何れにせよ…

改憲ラディカリズムの葬送曲

詳しいことは知らないが、先日、安倍総理が今秋の臨時国会において、憲法第九条を巡る改憲草案を提出すると明言し、物議を醸しているらしい。今年の憲法記念日にも、2020年度までに改憲を実現すると息巻いて、総理は世間を騒然とさせた。改憲に関する論…

文学的形式の多様性(「スタイル」と「ジャンル」の問題)

文学という抽象的で観念的な言葉によって指し示される形式は、果てしない多様性を備えている。例えば「詩歌」という大雑把なジャンルに限っても、日本固有の短歌・俳句から、中国における絶句や律詩などの漢詩、ヨーロッパのソネットやバラッドなど、その形…

小説「夏と女とチェリーの私と」 10

長谷川が退職してから、予備校の内部では知らぬ間に水道管の継ぎ目が地中深くで不意に破れるように、何処からか紗環子先輩との後ろ暗い噂が無数の背鰭や尾鰭を伴って流れるようになった。それなりに年齢の進んだ冴えない男が俄かに職業を鞍替えするのは、世…

小説「夏と女とチェリーの私と」 9

思わず振り上げた拳を間抜けな顔で眺める長谷川の腑抜けじみた態度が猶更、気に食わなかった。己の犯した罪悪の重大さを少しも理解していない愚か者の醜さが、そのときの長谷川の総身から放射能の如く濫れ出ていた。そのことが、消え残った私の薄弱な理性に…

小説「夏と女とチェリーの私と」 8

「俺は仕事を変えようと思ってるんだ」 一頻り注文して、酒も幾度か注ぎ足してもらった後で、すっかり日に焼けた蛸のような色合いに目許を染め上げた長谷川は、私たちが事前に予想もしなかったことを出し抜けに言い放った。 「仕事を辞めて、実家へ帰る。親…

小説「夏と女とチェリーの私と」 7

至極当然のことながら、先輩は予備校講師のアルバイトを辞めてしまった。本人は病室に幽閉されたままらしく、代わりに先輩の母親が菓子折を持って挨拶に来た。不幸な事故に巻き込まれた立場であるのに、仕事に急に穴を空けて御迷惑を掛けたからと、先輩の母…