サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「帰り道」

秋は深まる

刻一刻

風のなかで冷えていくあなたの頬が

秋の光りに染められて

夕闇は冴え渡って

思わず手を伸ばす

芯から冷えた あなたの頬

子どものように

幼い唇

 

誰もいない公園に

夕陽が射す

無人のブランコが

木枯らしに揺れる

知らない間に

ずいぶん遠くまで来てしまった

もう帰り道はわからない

あなたは泣き顔で

タバコをくわえる

頼りにならない標識が

アスファルトを見守っている

子どものように幼い唇

あなたは顫えながら

タバコに火をともす

あふれる煙

風にさらわれる

 

いつも

戸惑いながら

道を選んだ

曲がり角に

さしかかる度に

思いつきだけで

選んだ道は

二人を知らない街に運んだ

まるで風のように

行方の知れない旅路

 

見失った帰り道を探して

わたしたちは顫える手をつなぐ

青白く冷えていくあなたの

子どものように幼い唇

くわえられたタバコ

眠れない夜の深み

十二時の鐘が

鳴り響くまでに

もどれるだろうか

あなたは不安そうにわたしを見た

わたしだってほんとうは何も約束できないのに

 

空き家ばかり続く町に出た

消えかかる街燈の蛍光管が

あなたの不安をいっそう煽る

闇はまるで革の手袋のように

二人のカラダを捕まえてしまう

わたしもあなたも子供のように身をすくめる

つよく握りあった二つの掌

あなたは無理に微笑んでみせる

闇のなかで

見捨てられた夜道の上で

 

もう帰れないのかな

あなたは冷え切った耳朶を

手袋でそっとくるむ

弱々しい街燈の光が

二つの影をうすく伸ばす

わからないとわたしは答える

どうして

帰り道を覚えておかなかったのだろう

なぜ振り返ることを

ためらったのだろう

闇が辺りを覆ってしまう

もうあなたの心は

溶けてしまった蝋燭のように

熱を持たない

その幼い唇にくわえられたタバコ

闇のなかで光る幻