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サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

恩田陸「常野物語」

文学

 なるべく短く書こうと思っているが、実際に短かく書けるかどうかは分からない。

 私は恩田陸という作家が余り好みではない。尤も、私が読んだことのある彼女の小説は数えるほどで、恐らく彼女はどちらかと言えば多作の部類に含まれる書き手であろうから、そんな私が彼女の文業を彼是と論うのは僭越の謗りを免かれないだろう。しかし、こんなところで見えない誰かに気兼ねしても始まらないので、余り好きではないと正直に書かせてもらう。

 「六番目の小夜子」(新潮文庫)という半ば伝説的な処女作を、私は読んだことがある。なかなか面白かったように記憶しているが、終わり方は肩透かしだったような覚えもある。何れにせよ細部に関する記憶は殆ど残っておらず、何度も繰り返し読み返したくなるような魅力が備わっていたとは思えない。

 後に私は「ネクロポリス」(朝日文庫)という小説を偶然、流山街道沿いのすばる書店で手に取って、何となく面白そうだなと思って購入し、数ページ読んで投げ出した。兎に角、退屈なのだ。何と言っても酷いのが、文章のクオリティである。意味が取り辛いだけならまだしも、持って回った悪文というより、単に文章のセンスが根本的に欠如しているのではないかと思わせるような拙劣な仕上がりであった。はっきり言って、小説として下手糞である。

 ところが「常野物語」のシリーズに関して言えば、これは「ネクロポリス」の大仰な下らなさが幻のように、同じ作者とは思えぬほど素晴らしい作品である。淡々とした文章でシンプルに綴られているのだが、文章の強度が見た目とは裏腹に素晴らしく高い。ファンタジーの味わいに、現実の身も蓋もない厳しさや残忍さが涼しげな顔で織り込まれていて、甘ったるさがない。私は、この作品群を手放しで絶賛したい。良質なファンタジーだけが持ち得る魅力が、この「常野物語」のシリーズには存分に漲っている。

 そんなの、単なるお前の偏った好みじゃないかって? その通りである。私は「常野物語」の世界観や、そこに流れている空気の質がとても好みだ。だが「ネクロポリス」は疑いようのない駄作である。