サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「八月六日」

夏でした

地面には

陽炎が揺らぎ

私の自転車は

じりじりと焼けて熱く

空は青く

何も過不足のない

輝くような夏の一日でした

 

空が不意に光り

熱い風が劇しい怒りのように

大地へ落下した

私はそのとき九つの少女で

私の自転車は買ってもらったばかりの

眩しい新品でした

 

悲鳴が上がるひまもない

叫喚が

あたりを支配するまでには

まだ時間がかかる

分厚い雲が空を一面におおって

夏の終わりのように

いや

世界の終わりのように

私の住む町は

巨大な熱と光に呑まれたのです

 

それは神々の怒りではない

それは人間の仕業です

他ならぬ人間という同類がこしらえた

悪魔のような芸術に

私のふるさとは焼かれた

私のふるさとは荼毘に付された

 

私はそのとき九つの少女で

未来を意識することができないくらい

多くの果てしない可能性に囲まれ

父母に愛され

友人に恵まれ

健康で快活で

でも長く降りつづいた黒い雨は

私の幸福に爪を立てた

忘れられない憎しみが骨に染み入る

 

それは神々の怒りではない

それは人間の仕業です

それは人間への罰ではなく

人間が自らかかえこんだ

重たい罪悪です

それを理解しているのですか

同胞を

あれから六十年以上が過ぎても

いまだに苦しめつづける

身の毛もよだつ悪魔の芸術で

焼いてころした罪の重さを

何も知らない人々が暮らす街に

暴力の雨が

したたる

血がしたたる

私は

九つの少女であることの幸福を

その日から急速にわすれる