サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「幸福な星の物語」

好きであることは

様々な苦しみを呼び寄せる

魔法のようなもので

私たちは時にその変動に戸惑う

(好きであることは我々を混迷に導く)

私たちの感情は常に劇しいアップダウンをくりかえす

「さよなら」と「離れたくない」の

はざまで

私たちは透明に呼吸している

(好きであることは自己完結性を拒む)

昨日まで

逸らすこともできなかった眼差しが今日

不意に背けられる

 

哀しみはいつも

私たちの足もとを

冷たく濡らす

(それはまるで罪悪のように我々を虐げる)

あなたのいない風景に

あなたのいる風景が重なって

私の涙腺は開放される

(それがまるで無意味な現象であることを我々は経験的に熟知している)

別れは思い出を残骸にかえて

涙を自己満足に堕落させる

別れのとき

私たちの涙はいつも

自己憐憫のためにのみ流される

(それは愛情ではなく自慰行為である)

あなたの顔が

ぼやけるのは

重たい哀しみが

私の眼を

私自身の心臓に向けさせるからだ

 

幸福な季節が

静かに不意に

おわりをむかえ

私たちは冷たい風に

身をすくませる

すべては錯覚の累積だったと

過ぎ去った日々は

一斉に口をそろえる

それでも私たちの本能が

欲望と愛情を忘れることはない

旋律はつねに鳴り渡りつづける

この高らかな旋律は幸福な星の讃歌なのだから

 

別れても別れても

新しいきずなが

あちこちに日々

繰り返し芽生えて

土をかぶせるひまもない

私たちは刻一刻と新しい恋に落ち

眼がくらみ

耳が遠くなり

魂だけがヒーターのように紅くかがやく

無数に掘られた

墓穴へ落ちるように

私たちは刻一刻と違う誰かを好きになって

想いをかきたてられて

切なさのあまりに

ナイフのような言葉さえ

振り回しかねないのだ

あなたが好きですと百回告げても

だれも驚かない

この美しい

幸福な星のうえで

私たちは毎夜

新しい誰かの

柔らかい裸体にかぶさり

優しく交わるのだ

喘ぎが旋律となって

夜空へ展がるように祈りながら