サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2016-01-28から1日間の記事一覧

「殉国紀」 第四章 平穏の終わり 4

「日没まで時間がない。夜更けの海を、こんな小さな船で動き回るのは危険だ。何処かの島に船を停めて、夜を明かすのが一番だろう」 艫に陣取り、呪動機の調整と操舵に当たっていたエトルースが、行く手に広がる壮麗な落日に眼を細めて言った。穏やかな夕凪の…

「殉国紀」 第四章 平穏の終わり 3

西日の射し込む部屋に座り込んだイスナは、肌を蒼白に染めて顫えていた。扉が開き、サルファンと眼が合った瞬間、堰を切ったように大粒の涙が頬を伝い、襟首へ染み入る。覚束ない足取りで立ち上がり、恋人の胸に顔を埋めて嗚咽する華奢な背中を、彼は励ます…

「殉国紀」 第四章 平穏の終わり 2

水底に潜ったような息苦しさが、胸から下腹を覆っていた。痺れるような痛みが、頬に蟠っている。ゆっくりと瞼を開くと、剥き出しの無骨な梁が橙色に染まっているのが見えた。 (此処は何処だ) 起き上がろうにも、躰に力が入らない。鉛を鋳込まれたように筋…

「殉国紀」 第四章 平穏の終わり 1

夏祭りを終えたイシュマールの街は、三日間の「黙祷節」に入る。祭礼の為に地上へ降臨した神々が、無事に天宮へ戻れるように、敬虔な祈りを捧げるのだ。黙祷節の間は漁師も商人も仕事を休む。最大の書き入れ時を乗り切った「海鮮のラシルド」の従業員たちも…

「殉国紀」 第三章 追跡の始まり 5

「俺が貰ってよかったのかな」 ティルダ地区の軍用鉄道管理隊庁舎へ引き返す途次、ファジルは腰に帯びた呪刀の重さを持て余すように呟いた。 「貰ったんじゃない。借りてるだけだ。友人の形見だと言ってただろう」 「そうだけどさ。大事なものなのに、本当に…

「殉国紀」 第三章 追跡の始まり 4

キグナシア市内を南北に縦断するインフェザー大路は、貴瑪公インフェザー・キグナスの時代に整備された幹道である。貴瑪公は猛将として知られ、麾下の騎兵隊は敗北の二字と無縁であった。捷報の度、人々は大路に集い、歓呼を以て凱旋する勇士の戦列を出迎え…

「殉国紀」 第三章 追跡の始まり 3

「此処が、私の研究室だ」 呪工学部棟の一階、歩廊の最も奥まった場所にある扉に、リケイムの名を記した銘板が掲げられている。扉の上部に刻まれた鉄鎚とアレスワシ(キグナシア地方の固有種である鷲の名)の紋章は、この大学がキグナス公家の肝煎りで建設さ…

「殉国紀」 第三章 追跡の始まり 2

「ちゃんと前を見て歩かないと、怪我するぞ。気位の高い庁務官様に肩でもぶつけたら、どんな言いがかりをつけられるか、分かったもんじゃないんだ」 軍用鉄道管理隊の庁舎を出て、昼餉の為に手頃な食堂を見繕って歩きながら、パレミダは栗色の髪を揺らしてフ…

「殉国紀」 第三章 追跡の始まり 1

キグナシアは、アレス盆地に築かれた古都であり、建国戦争以前は、キグナシア公国の首府として栄華を極めた。太祖アルヴァ・グリイスの時代に、緑邦帝国はキグナシアに侵攻し、星璞公(せいはくこう)フェノゼヴェ・キグナスを降伏させ、その領地を併呑した。…

サラダ坊主風土記 「長野」(善光寺・小布施・湯田中) 其の二

saladboze.hatenablog.com 今日は随分以前に最初の記事を書いたまま、ずっと放置しておいた紀行文の続きを書こうと思う。何故そのように思い立ったのかは自分自身でもよく分からない。だが、此間「20歳」というテーマに合わせて当時の自分の生活や感情を思…