サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2018-11-09から1日間の記事一覧

「堕落」に関する対蹠的な見解 三島由紀夫と坂口安吾をめぐって

三島由紀夫という作家は、生きることを一種の「堕落」として捉えていた。彼にとって「若さ」は常に美徳であり、一方の「老い」は醜悪な悪徳に他ならない。実存的な時間の流れに導かれて、生から死へと躙るように進んでいく我々の生物学的な宿命は、或る純粋…

詩作 「BUENA VISTA」

その馬は 私の息子と同じ年の 同じ日に生まれた 中山競馬場に足を運ぶ習慣が途絶えてから ずいぶん経って初めて知った 性別は違うけれど そもそも生き物の種類が違うけれど 私の息子は 北海道生まれの彼女のように 美しいフォームで 黒鹿毛のたてがみを風に…

詩作 「PASSIVE VOICE」

愛されることよりも 強く深い比重で 私のこころに迫るもの 静かな黄昏に あなたのこころを過るもの 手を伸ばして 指を開いて いつだってひたすらに求めていた 愛されることよりも 強く深い比重で 私を満たす 愛しさのスープ 階段をのぼるように 確実に私たち…

詩作 「そうやって少しずつ忘れていく」

そうやって 昨日が見えない場所へにじみながら消えていく たとえばフロントグラスを覆う夕立 たとえば明け方のベランダから見える朝霧の市街地 たとえばタバコの煙の向こうの君の微笑 たとえば削除したアドレスの複雑なアルファベット 初めて口づけたときの…

詩作 「着替えましょう」

着替えた 新しい服に 君に逢わなくなったから 今まで着ていた服を着る気がしない どの服にも想い出があり どの服にも 君の指紋がきっと残っているだろう 鑑識にしか分からない痕跡が 見え隠れする気がするから 古い服はクローゼットに封じこめて もう逢えな…

詩作 「MELANCHOLY」

要するに冷めた訳だ どんな秩序も エントロピーの法則に従って やがて崩壊に導かれていくものだから 別に不審には思わないよ 哀しくなんかないよ 涙は一つの生理現象であって 人格や内面とは関係がない だから電話が切れないのも俺のせいじゃない 騒めく胸が…

詩作 「砂漠」

砂嵐の吹く夜に 私は孤独の意味を知った 切り離されて在ることの冷たさを知った 月が明るく輝いている 私たちは生きることの 砂粒のような脆さに怯えている たとえば手を伸ばして掴もうとしたとき 残酷に振り払われたときの傷口が 今も紅葉のように鮮やかに…

詩作 「想い重ねて」

隔てられた距離が こんなにも果てしないせいで 僕たちはうまく 呼吸することさえ難しい いろいろなことが 障碍になって いつまでも繋がれずにいる 結び目が手荒くほどかれて 息がかかるほど傍にいた君が 無限に遠退きはじめる 一度は重ねられた掌 重ねられた…

転生の思想 三島由紀夫「奔馬」 1

三島由紀夫の畢生の大作「豊饒の海」の第二巻に当たる『奔馬』(新潮文庫)の繙読に着手したので、感想の断片を書き散らしておきたいと思う。 三島由紀夫という作家の精神に内在する特異な価値観の形式を、仮に一言で要約するならば「生きることは堕落するこ…