サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2019-09-10から1日間の記事一覧

詩作 「金木犀」

静かに壊れていくものの 息づかい わたしたちに許された いくつかのみじかい祈り 大きな声で 嘆く天使 その痩せた肩胛骨 自分の姿を 鏡に映して 小さく笑った まるで現実のように 閉鎖された空間で わたしたちに認められた乏しい権利 切なげに微笑む夕暮れの…

詩作 「シルエット」

孤独な明け方の光 暁の街で 夜から脱け出した黒猫の影 天球儀の奥底で 二人は巡り逢いました なにかの間違いのように 触れ合った袖口 宿命という言葉を 古びた辞書から拾い上げる 黒革の財布から 美しい新札をとりだして 窓口へ出したら 役所の人は静かに首…

詩作 「桜貝」

海辺に 夢のかけらが 落ちていた 記憶の哀しいピースのように 私たちの暮らしの すみずみに転がっている 煮え切らない想いのように 春が来ても この海の冷え切った水面は融けない そのとき彼女はつぶやいた 私の愛した人は 冬が過ぎてもまだ帰らない あれか…

詩作 「冒頭」

風のなかで誰かが歌っていた 春の嵐が 都会の鉄道網をぞんぶんに掻き乱した ハレー彗星がもうすぐ地球に届く 総武線各駅停車は今 亀戸駅を発車したばかりです 強がって結局は 相手のなさけを欲しがっているだけ 理窟で割り切れるものを 拾い集める でも欲し…

詩作 「音を立てないでください」

無音の階段を夕陽が斜めにさえぎる 憂鬱な日には 憂鬱な長雨が降り 私たちを揺さぶる やがて 世界は暗色の外套を翻すだろう 静かに唇を重ねたときの 小さな 濡れた音 静寂が水晶のように劇しくふるえるので 私たちは舌を絡められない 音が立つから あなたと…

詩作 「ふたり暮らし」

空は青く晴れている 青葉が風に揺れている 遠い道を歩いてきた あなたの笑顔が 細胞のなかに折り畳まれている 通いなれた駅までの道を 二人で歩き始める 季節が変わり 風は柔らかく吹き寄せる あなたの苗字を 表札に加えよう ふたりで暮らすこと 真昼のあふ…