サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2019-11-23から1日間の記事一覧

「Hopeless Case」 13

喫茶店を領する雑多な物音、誰かの低い話し声や、洗い物の食器が触れ合う硬く軽やかな響きや、静謐な音量で流れる異国の言葉の楽曲、それらの緊密な重なりが育む生温い居心地の良さに包まれて、椿は透明な幸福の感情を咬み締めていた。殊更に意識しない限り…

「Hopeless Case」 12

早春の柔らかな風が、埃っぽい街衢を懶惰に彩る水曜日の晴れた朝、椿は待ち合わせの場所に指定された本郷の小さな喫茶店で、静かにミラン・クンデラの「冗談」を読んでいた。尤も、充分な集中力を発揮して、その物語の奥地に分け入っていたとは到底言い難い…