サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

創作「月影」

小説「月影」 3

小学校に上がる少し前から、燈里は夜中に起き出して夢遊病者の如き症状を呈することが多くなった。当時、子供の寝室に充てていた居間の隣の和室から、不自然な物音が漏れてくる。何事かと思って身を硬くすると、瞼の開いていない燈里が寝乱れた黒髪を複雑に…

小説「月影」 2

大切なものの価値や有難味や尊さを、人は失ってから初めて悟ると世間は口を酸っぱくして哀しげに、憂鬱な表情で何度も言い募る。如何にも言い古されて手垢に塗れた言葉だが、実際問題、それは揺るぎない真理であろう。燈里が普通に私の手の届く範囲で成長し…

小説「月影」 1

人から、どういう娘さんでしたかと訊かれる度に、私の唇は堪え難い重圧のために素気なく閉ざされてしまう。そうした現象に抗おうと試みても、鋼鉄の城門のように、或いは濠を渡る頑丈な跳ね橋が敵襲を察して遽しく引き揚げられるように、私の唇は半ば自動的…