サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作

詩作 「MELANCHOLY」

要するに冷めた訳だ どんな秩序も エントロピーの法則に従って やがて崩壊に導かれていくものだから 別に不審には思わないよ 哀しくなんかないよ 涙は一つの生理現象であって 人格や内面とは関係がない だから電話が切れないのも俺のせいじゃない 騒めく胸が…

詩作 「砂漠」

砂嵐の吹く夜に 私は孤独の意味を知った 切り離されて在ることの冷たさを知った 月が明るく輝いている 私たちは生きることの 砂粒のような脆さに怯えている たとえば手を伸ばして掴もうとしたとき 残酷に振り払われたときの傷口が 今も紅葉のように鮮やかに…

詩作 「想い重ねて」

隔てられた距離が こんなにも果てしないせいで 僕たちはうまく 呼吸することさえ難しい いろいろなことが 障碍になって いつまでも繋がれずにいる 結び目が手荒くほどかれて 息がかかるほど傍にいた君が 無限に遠退きはじめる 一度は重ねられた掌 重ねられた…

詩作 「雨」

雨が降っていました 秋は徐々に冬へと近づいていく 窓際に置かれた花瓶のなかで 名前の分からない花がしずかに萎れていく 今夜はひどく冷える 秋の音階が冬の短調のなかへ融けていくように 買ったばかりの焦茶色のベルトの腕時計が 時間を刻む小さな音が聞こ…

詩作 「心拍数」

いつものように しゃべっていた 仕事終わりの 夜の休憩室で 古いテレビから 足摺岬を蹂躙する台風十号のニュース 暴風域は おそろしく広い だけど別に関係ないよな 膝を組んでタバコを吸ってた 缶コーヒーはもう温くなっている なにかしゃべっていて なにか…

詩作 「SOLID MIND」

夢うつつで生きていた 足もとは いつも宙に浮いていた 想いの強さが 物理的な現実から 私のこころを隔てていたのだ 夏は去り 秋が訪れる 蝉が死に 蟋蟀が啼き始める 慟哭のように おぼれられる限り おぼれていくような恋に その胸の苦しさに どんな必然を信…

詩作 「UNDERGROUND TRACK」

地下のホームで 久々にあなたを見かけた 一年以上経つだろう 人生八十年と仮定すれば 一年の歳月は 一瞬の泡沫にすぎない だけど ひとつの泡が生まれて弾けるほどの 短い季節の循環のなかでも 変わっていくものは ひどく大袈裟に 様変わりしてしまうのだ 記…

詩作 「ADDICTIVE GIRL」

求めることに躍起な 麦わら帽子の少女 波間に揺れるヨットの明るい帆が 難破船の残骸のように ふるえている 苦い薬を飲んだように 少女は険しい目つきで 私の裏切りをなじった なぜ総てを受け容れてくれないのかと なぜ完璧な肯定を与えてくれないのかと 怒…

詩作 「千年」

孤独が孤独であるためには 生傷が必要です 千年も生きれば どんな傷口にも慣れるでしょうが それでもやはり哀しいものです 愛するものが消えてしまう刹那の 薄暗い光の軌跡は 果てしない時空を隔てて 想いはいつまでも空回り 眠れぬ夜を抜けた先で 夜明けの…

詩作 「FATE」

声が聴こえない部屋で 黒い哀しみにおぼれていた 感傷は私たちの骨を着実に腐らせる 出逢うことと 別れることのあいだに 身を沈めて 私たちの生活は 冷たい波に洗われつづける あなたの古い写真 まぶしく輝く初夏の風景 心変わりを思い返す痛み せつなさ 運…

詩作 「SCORPIO」

毒針で刺すぞ 痛みは激しいぞ 動けなくなって 白骨になっちまうぞ 裏切りは許さないぞ 愛されるということは 感情の債務をしょいこむということだ お前は俺に借りがあるはずだ 借りたものはかならず返せと 親や世間から習ったはずだよな? お前のために俺は…

詩作 「INTIMACY」

部屋を選ぶ(画面だけでは差が分かりづらい) 値段を確かめる(休前日は値上がりする) 愛し合うために 長い夜の深みのなかで 互いの存在を確かめる 腕耳朶指先腋臍肌唇項涙髪性器陰毛 息苦しさも愛しさの一環だ 他の部屋でも同じ行為が営まれている 土曜日…

詩作 「公民の時間」

手を挙げる 性欲が高まる 教科書のページが風にめくれる あなたの肩のフリルが 夏の光のなかで揺れる 私たちの知らない世界は この道の先にたくさんある 手を伸ばす 呼吸が弾む あなたの唇が 滑らかにひらかれる 濡れた音をたてて さびしいから好きになるの…

詩作 「SOMEWHERE」

始まりはただ 秋の平凡な一日で 夕映えは ふだんと変わらぬ壮麗な茜色 坂道をくだる自転車の軋みが 二人の時間の 伴奏でした あのころ いわゆる青春と呼ばれる時代を過ぎたあとでも 働くことが日常のまんなかを貫くようになったあとでも 私たちはきっと 自由…

詩作 「そしてまた春が訪れる」

凍りつくような冬の風が 寝静まった車道を走りぬける 終わってしまった関係を いつまでも語り続けるのは愚かだと 酔った友人はグラス片手に諭す 終わりとは何か 始まりとは何か 永遠とは何か 壊れやすいこころで 生きていくためには何が必要か 春が来るまで …

詩作 「CERTAIN」

時間が流れ 季節が巡り 落ち葉のように記憶は積もり 絆はさまざまな場面で 伸び縮みを繰り返す 古い歌が聴こえれば 急に私たちは過去へ連れ去られる 時計の針が 逆行を始める 眩しかった風景が眼裏に 美しい彩色で再現される 何の役にも立たないはずの 過ぎ…

詩作 「ホテル」

雨が上がった後の 夜の駅前は 艶やかな光に満ちている 無数のタクシーが列を作り 夥しい数の人間が 好き勝手な方向へ歩いている 私たちは 手をつないで 光の隙間を狙って 忍び足で進んでいく 知り合いにみつかったら 気まずいからね 西船橋の夜は騒がしい だ…

詩作 「新世界より」

壊れものをあつかうように 優しく指先に神経をそそいで 大事に守って 今日まで辛うじて 綱渡りには失敗せずに 来たつもりでした けれど やはり運命には逆らえないのでしょうか 掌中の珠 という表現があります そうやって大切に慈しんだとしても FRAGILEとい…

詩作 「削除しますか」

削除しますか(はい・いいえ) 躊躇は あなたを不幸にしますよ 過去は過去 あなたはいつまでも思い出を大事に抱きしめて その香りに顔を埋めているけれど 過去は過去 過ぎ去ったものたちは すでに命をもたない 振り返ることは あなたを不幸にしますよ 履歴を…

詩作 「勿忘草の歌」

若草の萌える平原 緩やかに流れる風の音 私たちは絶えず この大地と共に暮らしてきた この草原を渡る風の歌と共に 私たちの喜怒哀楽は 記憶の箱舟として 川面を漂いつづける 手をつないで 私たちは多くの街角を歩いた すべての街路には 思い出があり なにか…

詩作 「カッターナイフ」

それは無駄な 悪あがきというやつで 私はいつまでも 携帯が青く光るのを 唇をかんで待っている 鳴らない電話に 不意に光りと音が よみがえるのを 私は平凡な生活の 様々な場面で待っている あきらめられない魂が この胸の奥に いつまでも熱い光りをたたえて…

詩作 「国境線の突破」

金網越しに まぶしい太陽が見える 熱い風がカラダを包んではなさない 喉が渇いて死にそうだ 記憶が飛びそうだ この国境線の金網が いつまで経っても俺とあいつを隔て続けるんだ 車は大破してゴミの塊だ 眠れない夜はマリファナタバコが肺を焦がす ハンドルを…

詩作 「ワット・オーム・ボルト・アンペア」

稲妻がひらめく 暗い夕空を鉤裂きに 光りが渡る 突然の雨に慌てふためいて あなたは軒先に隠れる 何を売っているのだか知れない 個人商店の雨樋のおと 都会の孤独は深刻だ あなたはいつまでもそれに慣れることができない 迷宮のような地下鉄を乗り換えるとき…

詩作 「幸福な星の物語」

好きであることは 様々な苦しみを呼び寄せる 魔法のようなもので 私たちは時にその変動に戸惑う (好きであることは我々を混迷に導く) 私たちの感情は常に劇しいアップダウンをくりかえす 「さよなら」と「離れたくない」の はざまで 私たちは透明に呼吸し…

詩作 「スイッチ」

責めても無駄でしょう 誰かがそれに触れたのですから ブレーカーが落ちるように 使用量が容量を超えたのです あふれだしてしまったのです 覆水 盆に返らず 掌を返したように あなたは顔を背けます その横顔に 水銀灯の光がにじむ 心変わりという 美しい言葉 …

詩作 「親子」

それは 互いに分かり合えないものを指す 隠語です 憎しみの類義語です 友情の対義語です 友人はとりかえられる(しかも随意に) 腐れ縁は途切れない 古いゴムホースみたいに 民法的規定にこだわり続ける(旧弊) 女は捨てられるが(きちんと謄本に×がつく) …

詩作 「声が聴きたくて」

さびしいという言葉が 何故あるのか さびしいという感情が 何故あるのか ときに私たちは見失う 重力が 世界を地上に繋ぎとめるように 何かが私たちを 引き寄せあい 遠ざかることを禁じる さびしさの痛みが 胸の奥をえぐるとき 私たちは世界から浮き上がり 月…

詩作 「咆哮」

そのとき 不意に電車がとまり 私は世界の裂け目を 覗いたような気がした 普段と変わらぬ 午後の景色のなかに 変化が訪れた 線路は軋み 緊急の放送があらゆる場所で 白目をむいて 奏でられた 地球はいよいよ 終わりを迎えるのだろうか 電車の扉が開くまで時間…

詩作 「八月六日」

夏でした 地面には 陽炎が揺らぎ 私の自転車は じりじりと焼けて熱く 空は青く 何も過不足のない 輝くような夏の一日でした 空が不意に光り 熱い風が劇しい怒りのように 大地へ落下した 私はそのとき九つの少女で 私の自転車は買ってもらったばかりの 眩しい…

詩作 「悪意」

黄昏の校庭に 人影は乏しい 見捨てられた景色 見捨てられた時間 そして 見捨てられた私へ 熱いシャワーのように 降りそそぐ悪意 カッターナイフは スカートを切り裂く為のものではありません 絵の具は ブラウスを汚す為のものではありません 携帯のカメラは …