サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの対話篇『ゴルギアス』(岩波文庫)に就いて書く。 欲望は、苦痛と快楽の綜合によって構成されている。欲望が、その充足の過程において快楽の感覚を経験する為には、前提として苦痛の感覚の介在が要請される。何らかの欠乏が事前に生じて…

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 1

プラトンの対話篇『ゴルギアス』(岩波文庫)に就いて、感想の断片を認めておく。 様々な話柄を取り扱って絶えず流動的に舳先の方角を転変させ続けることは、この「ゴルギアス」に限らず、プラトンの書き遺した数多の対話篇の総体に共通する原理的な特徴であ…

プラトン「メノン」に関する覚書 4

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 メノンによって提示された「探究のパラドックス」を解決する為の処方箋として、ソクラテスは次のような考え方を表明する。 このように魂は不死であり、すでに何度も生まれてきており、…

プラトン「メノン」に関する覚書 3

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 この対話篇の中で、登場人物のメノンが提示し、ソクラテスが図式的に整理した「探究のパラドックス」に関して、断片的な思索を書き留めておこうと思う。 「人間には、知っていることも…

Cahier(哲学・偏向・単独性・固有性)

*賢くあろうと努める者は極めて安直に、理性に基づく必然性の認識という奇態な信仰へ呑み込まれる。理性によって現実の構造を正しく認識しようと試みるのは、殊更に批難されるべき謂れのない作業である。だが、そうした作業に何らかの倫理的な「価値」を見…

プラトン「メノン」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 「プロタゴラス」や「メノン」といった初期の対話篇において、「美徳アレテー」という観念の正体に関して繰り広げられる果てしない問答は、明確で完結的な解答に辿り着かない。恐らくプ…

プラトン「メノン」に関する覚書 1

プラトンの対話篇『メノン』(光文社古典新訳文庫)を読了したので、感想の断片を記しておく。 「メノン」は「プロタゴラス」同様、人間の「美徳アレテー」を重要な主題に据えた作品である。そして「美徳」は教えられるものなのか、仮にそうであるならば、何…

プラトン「プロタゴラス」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの『プロタゴラス』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 悪徳という概念は、何故か自明の事柄のように我々の生活の周辺を飛び交っているように感じられるが、その精密な定義を取り出そうと試みれば、断片的な知見が氾濫して認識の混乱を…

プラトン「プロタゴラス」に関する覚書 1

古代ギリシアの哲学者であるプラトンの『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)を読了したので、今度は同じ著者の『プロタゴラス』(光文社古典新訳文庫)に着手した。 現代的な日本語に即した、平明な訳文をコンセプトに掲げる光文社古典新訳文庫の一冊…

プラトン「ソクラテスの弁明」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 哲学的な探究は、何らかの具体的な知見や学術的な成果を獲得する為に行なわれるものだろうか。科学者が素粒子を発見し、医者がウイルスを発見するように、哲学者は何らかの知…

Cahier(「包括的固有性」という概念)

*例えば一般的な男女の関係において、整った顔立ちや肢体、行き届いた気配り、陽気で楽観的な雰囲気、これら諸々の要素は、その人間の魅力を構成する因子として、重要な価値の源泉であると認められている。配慮に満ちて、如何なるときも弱音や悪口を漏らさ…

プラトン「ソクラテスの弁明」に関する覚書 1

ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)を読み終えたので、今度はプラトンの『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)に着手している。 エピクロスにしても、その思想的後裔であるルクレーティウスにしても、彼らが自らの思想を、真摯で綿密…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 6

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 エピクロス=ルクレーティウスの提唱する倫理学的な知見にとって、最も深刻な堕落と悪徳の種子となる危険を秘めているものは「欲望」と「恐怖」の二つである。「欲望」は、その…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 5

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 エピクロス=ルクレーティウスの信奉する宇宙論は、この世界の生成の合目的性を否定する。絶対的な存在としての造物主(神)が、何らかの青写真に基づいて、この宇宙を構築した…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 4

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 古代ギリシアの賢人エピクロスの思想を後世に伝えるルクレーティウスの貴重な詩文は、エピクロスの遺した厖大な著述(現代では、その過半は既に散逸して、我々の眼に触れる見込…

Cahier(成育・自我・素直)

*三月十五日を以て、娘が三歳になった。永いような、短いような、不思議な感覚に囚われている、と月並な科白を書きつけてみる。 新生児室のベッドに横たえられてすやすやと眠っている生まれたての娘の顔を、大きな硝子越しに眺めた記憶が、今でも鮮明に眼裏…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 3

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 古代から近現代に及ぶ人類の社会的な発展の過程は、専門的分業の発達の過程を同時に含んでいる。無論、小さな集団であっても、複数の人間の協調が存在する領域に、何らかの分業…

Cahier(運命・逆境・clinamen)

*エピクロスの原子論によれば、我々の住まう宇宙は、厖大な数の「原子」と無限に広がる「空虚」によって構成されている。そして「原子」の直線的な運動が、純然たる偶然に基づいて唐突に微妙な「偏差」を示すことによって、原子間の偶発的且つ相互的な結合…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 2

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 エピクロスの原子論は、従来の原子論に対して付け加えられた独自の創見である「クリナメン」(clinamen)即ち「原子の斜傾運動」によって画期的な意義を帯びたと一般に評価されて…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 1

エピクロスの『教説と手紙』(岩波文庫)を通読した流れのままに、現在は古代ローマの詩人であるルクレーティウスの『物の本質について』(同上)の頁を少しずつ捲っている。 古代ギリシアで活躍したエピクロスの厖大な著述は、その過半が散逸したと言われ、…

Cahier(体罰・虐待・懲戒権)

*子供を寝かしつけた後、テレビのニュースを眺めていたら、政府が近年続発する児童虐待の防止に向けて、児童福祉法及び児童虐待防止法の改正案を纏めたという報道に偶然接した。同時に政府は法改正と併せて、民法に定められた「懲戒権」に就いて、五年間を…

「迂遠な独裁」としての民主主義

「民主主義」(democracy)は、一般に最も穏健で現実的な、つまり現代の世界においては最善の政治的選択肢であるという印象を纏っている。だが、我々の推戴する代議士たちの不毛な闘争の風景を眺める限り、このような印象が如何なる根拠に基づいているのか、茫…

エピクロス「教説と手紙」に関する覚書 2

引き続き、エピクロスの『教説と手紙』(岩波文庫)に就いて書く。 悪しき「享楽主義」(hedonism)という汚名を着せられたエピクロスの思想が、実際には極めて穏健な「節制」の規範に基づいていることは、彼の遺した著述の断片を徴するだけでも明瞭に汲み取る…

エピクロス「教説と手紙」に関する覚書 1

六日連続勤務の合間に、古代ギリシアの哲学者エピクロスの残存する著述と書簡を編輯した『教説と手紙』(岩波文庫)を読了したので、覚書を認めておきたい。 夥しい数の著作を遺しながら、その殆どが散逸してしまった紀元前の哲学者の文章が、曲がりなりにも…

Cahier(陶酔と狂気)

*「陶酔」(intoxication)という現象は、人間の生活の様々な局面において顕現する。それは現実に関する明晰な認識の消滅を意味し、理性的な自我の解体を齎すような経験の総称である。陶酔は様々な力によって齎される。アルコールやドラッグなどの薬物、スポ…

バートランド・ラッセル「幸福論」に関する覚書 3

バートランド・ラッセルの『幸福論』(岩波文庫)を読了した。 非常に多岐に亘って「禍福」の原理を、具体的な実例と明快な考察と共に究明しているラッセルの「幸福論」の内容を、軽率で杜撰な要約に還元するのは適切でも生産的でもない態度である。けれども…

Cahier(「不機嫌な私」は他者に由来しない)

*人間は生きていれば些細なことで機嫌を損ね、刺々しい感情の虜に堕す。情緒が安定しているのが一番好ましく望ましい状態であることは理窟では弁えているのに、不機嫌に傾斜していく自分自身を押し留めようにも抑止出来ず、無意味な口論や意地の張り合いに…

バートランド・ラッセル「幸福論」に関する覚書 2

引き続き、バートランド・ラッセルの『幸福論』(岩波文庫)に就いて書く。 人間が「幸福」という茫洋たる観念に就いて明瞭な視界を確保したいと望む場合、差し当たってラッセルの書物に含まれている記述を悉く点検すれば、その要求は見事に叶えられるのでは…

バートランド・ラッセル「幸福論」に関する覚書 1

セネカの『生の短さについて』(岩波文庫)を読了したので、今はイギリスを代表する思想家の一人に計えられるバートランド・ラッセルの著名な『幸福論』(岩波文庫)を繙読している。 「幸福」という観念は、極めて内在的なものであり、事物の表層だけを捉え…

Cahier(「奴隷」の道徳)

*人間は誰しも他者からの評価を気に病む。毀誉褒貶に一喜一憂し、自己の存在や行動を、多数派の他者が築き上げた普遍的な規矩に合致させることに、奇妙な社会的幸福を感受する。こうした他律的な生き方は、余りにも深く我々の魂を蚕食しており、それ以外の…