サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

My Reading Record of "Who Moved My Cheese?"

英語学習の一環として取り組んだ Spencer Johnson,Who Moved My Cheese?,London,1999 を読了したので、感想の断片を認める。 本書は二〇〇〇年に扶桑社から邦訳が出版され、日本国内でも累計四〇〇万部に達する売上を誇る、極めて華々しい数字に彩られた国際…

「サラダ坊主日記」新年の御挨拶(2021年)

謹賀新年。皆様如何御過ごしでしょうか。サラダ坊主で御座います。本年も何卒宜しく御願い申し上げます。 旧年中の記憶は絶えざる新型コロナウイルスの猛威と共にあり、誰もが生活の変質と苦闘を強いられ、総理大臣が緊急事態宣言の発令に就いて否定的な見解…

Cahier(年の瀬・悪疫・逆境)

*光陰矢の如し、知らぬ間に年の瀬を迎え、新年が直ぐ傍に迫っている。恐らく新型コロナウイルスの世界的蔓延によって歴史にその名を色濃く刻まれるであろう2020年、人々の生活が事前に予測されない重大な変化と転換を強いられた一年、それが瞬く間に終わろ…

社会的盟約の擁護 ジークムント・フロイト「幻想の未来/文化への不満」 1

オーストリアの輩出した偉大な精神科医、ジークムント・フロイトの晩年の論文を収めた『幻想の未来/文化への不満』(光文社古典新訳文庫)に就いて、感想の断片を認める。 フロイトによって創始された「精神分析」(psychoanalysis)の壮大な体系は今日、数多…

「美徳/幸福」を巡る、華麗なる論争 ロレンツォ・ヴァッラ「快楽について」 3

十五世紀イタリアの人文主義者ロレンツォ・ヴァッラの著した対話篇『快楽について』(岩波文庫)を読了したので感想文を認める。 この対話篇の前半は、エピクロスの思想を信奉する登場人物ヴェージョによるストア学派の教説に対する論駁に充てられている。し…

「美徳/幸福」を巡る、華麗なる論争 ロレンツォ・ヴァッラ「快楽について」 2

十五世紀イタリアの人文主義者ロレンツォ・ヴァッラの『快楽について』(岩波文庫)と題された対話篇を巡って感想の断片を電子的画面に刻み込む。 ストア学派は如何なる外在的条件にも拘束されない不動の恒常的自己の確立を目指し、彼らの言葉でapatheiaと称…

「美徳/幸福」を巡る、華麗なる論争 ロレンツォ・ヴァッラ「快楽について」 1

目下、十五世紀イタリアの人文主義者ロレンツォ・ヴァッラの『快楽について』(岩波文庫)を繙読している。以下に、その感想の断片を認める。 ロレンツォ・ヴァッラが本書を著した意図は、当人の序文において明確に示されている。キリスト教の擁護とストア学…

内面的自由の保護 ジョン・ロック「寛容についての手紙」

十七世紀の暮れに西欧で出版されたジョン・ロックの『寛容についての手紙』(岩波文庫)を読了したので、感想文を認める。 私がこの書物を繙いたのは、その直前にルキウス・アンナエウス・セネカの『怒りについて』(岩波文庫)を読んだことが影響している。…

Cahier(理性の失調)

*古代ギリシアの代表的な哲学者であるプラトンは、その長大な対話篇「国家」において「魂の三区分」と呼ばれる考え方を提示している。普遍的な真理を観照する理性の働きを、人間の霊魂の本質的且つ優越的機能に定めたプラトンは、理智によって「意志=気概…

艱難と克己 セネカ「怒りについて」 3

古代ローマの文人政治家であったルキウス・アンナエウス・セネカの『怒りについて』(岩波文庫)の感想を書き留める。 本書の主菜に当たる「怒りについて」と題された書簡体の長文は、人間の懐く「情念」(affectus)の中で最も狂暴で醜悪な「怒り」の弊害に就…

Cahier(瞋恚・誹謗・希望)

*最近は蝸牛の速度で、セネカの『怒りについて』(岩波文庫)を読んでいる。読了したら改めて私的な感想を纏める積りなので、内容の詳細には立ち入らないが、セネカは「怒りについて」の全篇を通じて、只管に「怒り」という破壊的な情念の悪しき影響を、多…

艱難と克己 セネカ「怒りについて」 2

古代ローマの政治家であり哲人であったセネカの『怒りについて』(岩波文庫)を読む。 劈頭の「摂理について」に続けて収められた「賢者の恒心について」もまた、専ら「徳」に殉じて歩む賢者の清廉な生き方に対して、自然や社会が加える不正への懸念を取り扱…

艱難と克己 セネカ「怒りについて」 1

古代ローマの政治家であり哲人であるセネカの『怒りについて』(岩波文庫)を目下繙読中なので、覚書を認めておく。 本書の劈頭に収録された「摂理について」は、何故、正義を遵守する善人に対して種々の災厄が降り掛かるのか、という伝統的な疑念への応答を…

「意志」という名の欺瞞 ラ・ロシュフコー「箴言集」

十七世紀フランスの所謂「モラリスト」の一人として名高いラ・ロシュフコーの『箴言集』(講談社学術文庫)を読了したので、感想の断片を書き留めておく。 人間の生活や行動、歴史的な故事を調べて独自の知見を引き出すという著述の骨法は、特段モラリストに…

Cahier(榎本武揚・誠品書店・箴言集)

*近頃は『他人の顔』を読み終えた勢いに乗じて、安部公房の『榎本武揚』(中公文庫)を読んでいたのだが、段々と気が進まなくなって中断した。先日の仕事の帰りに、日本橋室町のコレドに入っている誠品書店へ立ち寄り、台湾のテント生地を使用した水色のブ…

サラダ坊主風土記 「勝浦・小湊・大多喜」 其の三

旅行二日目の朝も早起きをした。ビュッフェ形式の朝食を摂り、部屋に戻って手早く仕度を整え、ホテルの玄関で記念写真を撮ってから、マイクロバスで安房小湊駅まで送ってもらう。途次、土産物屋と和菓子屋に立ち寄って買い物をした。地元の銘菓である「いろ…

サラダ坊主風土記 「勝浦・小湊・大多喜」 其の二

外房線の安房小湊駅は、鴨川市に属する鄙びた港町に鎮座している。駅前には巨大なセブンイレブン(天津小湊店)があり、恐らく通常のコンビニの範疇を越えて、地域に密着したスーパーマーケットの機能も兼ねているのではないかと思われる。見るからに儲かっ…

サラダ坊主風土記 「勝浦・小湊・大多喜」 其の一

過日、妻子に義母を加えた四人で南総地方へ一泊二日の旅行に出掛けたので、その覚書を認める。 此度の企図の発端は、幸運にも妻が引き当てた「ディスカバー千葉」の宿泊者優待キャンペーンであった。一人当たり一泊最大五千円の割引が受けられる観光促進の企…

My Own Scarface 安部公房「他人の顔」

安部公房の『他人の顔』(新潮文庫)を読了したので、感想文を認める。 業務中の不慮の事故で顔面に深刻なケロイドを負い、自らの「容貌」を喪失した男が、精巧な仮面を作り上げて他者との関係の恢復を試みる「他人の顔」の筋書きは、如何にも安部公房らしい…

Cahier(時間の雫)

*三十五歳になった。年齢の目盛りが一つ進んだところで、日々の生活に根本的な変化が生じる訳ではない。新生児と一歳児との間に、巨大で劇的な成長の過程が横たわっているのとは違って、三十四歳から三十五歳への移行の歳月には、傍目には何の区別もつかな…

Cahier(三島由紀夫・希死念慮・浪漫主義)

*文学作品が、その執筆当時の社会的な環境や、作者の個人的な経験や思想信条を多かれ少なかれ反映することは避け難い。どんなに自分の独創性を信じてみたところで、我々が総てを任意に選択して誕生した訳ではないし、生まれる時も場所も択べないのだから(J…

Cahier(虫めづる姫君・失踪)

*先日の話である。私は仕事で不在であったので、妻から聞いた話だ。四歳の娘が、妻の母と一緒に風呂に入っていた。何処から忍び込んだのか、浴室の床を、一匹のダンゴムシが這っていた。妻の母が、それをシャワーで排水溝に洗い流した。それでもしぶとく生…

The Hopeless Obedience 安部公房「砂の女」

安部公房の長篇小説『砂の女』(新潮文庫)を読了したので、感想文を認める。 著者の代表作である「砂の女」の通読は概ね二十年振りではないかと思う。一度目は中学生の頃、父親の書棚に置かれていた函入りの初版本で読んだ。細部の記憶は曖昧だが、その息詰…

Cahier(「幻想+欲望=妄想」としての文学)

*文学作品は、個人の主観的幻想の形式である。無論、こうした性質は文学に限らず、芸術全般に共通して言えることだろう。或いは、芸術に限らず、もっと多くの社会的分野に見出される普遍的な構造であり原理であると言えるかも知れない。 個人の主観的幻想が…

Cahier(雨の葛西の線路の下で)

*保育園に通っている四歳の娘の運動会が本日予定されていたので、休みを取っていたのだが、降雨の為に当日の朝になって順延が決まった。妻も娘も仕度の為に早朝から起き出していたが、無意味な早起きとなってしまった。覚醒した娘は眠気と戦う妻に彼是と遊…

Urbanization and Logical Prison 安部公房「無関係な死・時の崖」

安部公房の短篇小説『無関係な死・時の崖』(新潮文庫)に就いて書く。 芸術的作品は、それが近代的個人の内面に根差していようとも、或いは国家を包摂する巨大な宗教的権威の反映であろうと、人間の個人或いは集団の描いた「幻想=妄想=fantasy」の表出さ…

Cahier(歴史と虚構)

*最近は日本史に関する初学者向けの書物を渉猟していたが、徐々に飽きてきた。石原比伊呂の『北朝の天皇』(中公新書)や亀田俊和の『観応の擾乱』(中公新書)などを読み、それなりに向学心は満たされるのだが、夥しく飛び交う人名や地名と、その錯綜した…

政治的権威の「盗用/奪還」 坂井孝一「承久の乱」 3

引き続き、坂井孝一の『承久の乱』(中公新書)に就いて感想文を認める。 天皇家にとっては、中央集権的な統治の徹底は、自らの血統の繁栄を意味する。人臣が過剰な権勢を揮って国政に容喙することは、天皇家の権益に対する侵犯を意味するだろう。そもそも律…

政治的権威の「盗用/奪還」 坂井孝一「承久の乱」 2

引き続き坂井孝一の『承久の乱』(中公新書)に就いて、感想文を認める。 各地に蟠踞する豪族を折伏し、屈服させる為に、文明の先進国である中国唐朝から「律令」を輸入して、中央集権的な統一国家の樹立という壮大な青写真を描いたのが古代日本の姿であると…

政治的権威の「盗用/奪還」 坂井孝一「承久の乱」 1

坂井孝一の『承久の乱』(中公新書)を読了したので感想文を認める。 後鳥羽院と鎌倉幕府との間に勃発した中世期の大乱である「承久の乱」の経緯と構造の解明に焦点を当てた本書は、読者の精密で行き届いた理解を促す為に「承久の乱」のみならず、そこへ至る…