サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

Cahier(依存・小利口・堕落・暗部)

*他人に依存するのではなく、自分の外側に接続されている諸々の外在的な権威に頼るのでもなく、自分自身の力と判断で、責任を引き受けて生きること、他人の存在を言い訳に用いて自分の信念や欲望を圧殺しないこと、不満の原因を他人に求めないこと、言い換…

三島由紀夫「金閣寺」再読 2

引き続き、三島由紀夫の「金閣寺」(新潮文庫)を再読した感想を認めておく。 ②プラトニズムの齎す倫理的害毒 「私」にとって「美」は、現象的な世界の裏側に潜んでいる、秘められた存在である。しかし、それは単純に「美」が彼岸的で超越的な観念であること…

Cahier(共依存・執著・渇愛)

*「共依存」という言葉がある。元々はアルコール依存症の患者とその家族との癒着した関係性の病態を指す為に、看護の現場から案出された概念であるらしい。その語義を極めて大掴みに咬み砕いて言えば「特定の人間関係に対する過剰なアディクション(addicti…

Cahier(自立・恐懼・隠遁)

*自立するということは何も、あらゆる規範を踏み破って手前勝手な欲望を殊更に強調し、他人の事情を一切斟酌せずに放縦に振舞うということではない。無論、自立するということは、他人の組み立てる種々の思惑に押し流されない強固な判断力や思考力の構築を…

三島由紀夫「金閣寺」再読 1

三島由紀夫の「金閣寺」(新潮文庫)の再読を終えたので、改めて感じた事柄を徒然に書き留めておく。 ①「美」と「人生」の根源的相剋 「金閣寺」という小説は、三島由紀夫という作家にとって重要な主題が、緊密で堅牢な秩序の中に閉じ込められた稀有の傑作で…

Cahier(道徳・良識・保守)

*自分の感じたことや考えたことに固執するのは、偏屈ということだ。そして偏屈であったり強情であったりすることは、一般論としては世間から余り好意的な眼差しを向けられない生活の態度である。自分の考えや意見、信念、主張に固執して、他人の忠告や訓誡…

Cahier(感情の濃縮・外界の不在・匿名性)

*感情の濃縮は、逃れ難い人間関係において生じる。時に相手に対する殺意にまで高まるほどの劇しい情念は、容易く着脱し得る合理的な人間関係の内部では充分に醸成されない。成程、確かに世の中には、通り魔による無作為な殺人や暴行の類が頻発している。だ…

Cahier(有限・不可能・祈り)

*永遠の愛とは、恋の堕落した形態であると、試しに言い切ってみる。つまり、いつか必ず訣別の刻限を迎えるものとされている筈の恋を、永遠に持続させようとする不穏当な欲望が、永遠の愛という崇高で空虚な理念を、一つの宗教的な象徴のように掲揚してみせ…

Cahier(視線・他者・内在的対話)

*「見る」という行為、必ずしも完全に主体的であるとは言えないが、往々にして人間の主体性の積極的な発露であると考えられている「見る」という行為には、複雑な政治的含意が備わっている。そこには「権力」というものの痕跡が露骨に刻み込まれている。 今…

Cahier(幸福・未来と現在・自律)

*「幸福」というものには誰しも漠然たる憧れを懐き、少なくとも不幸のどん底を這い回るよりは幸福で安楽な生活を送りたいと通俗的な願いを懐くのは庶民の慣習である。無論、私だって好んで不幸な、悲惨な境涯へ自ら歩みを進めたいとは思わないし、苛酷な修…

Cahier(自己支配・組織・不純な悪人)

*他人を支配しようとする心、言い換えれば「権力」に対する欲望は、様々な仮面と擬装を伴って、人間の社会の到る所に厭らしく浸潤している。権力の機能は、多くの場合、何らかの尤もらしい大義名分を隠れ蓑に纏い、如何にも道徳的な口実を悪用して、あらゆ…

「労働」と「放蕩」の二元論(中上健次をめぐって) 4

引き続き、中上健次に就いて書く。 ④「系譜」に対する霊媒的な受動性と、その悲劇的性格 中上健次の作り出した竹原秋幸という主人公は、自分の存在を取り囲む血の「系譜」に対して根源的な拒絶の姿勢を示している。それは根源的には実父との血の繋がりに対す…

「迎合」に就いて

直ぐに他人の意見に賛同したり、他人の思惑に阿ったりする人間は少なくない。だが、一方で人間には堅牢で頑迷な「自我」というものが備わっていて、それが他人の意見や思惑に対する反抗的な姿勢を育む根拠となる。 誰でもこの二つの側面は交互に顕現するもの…

Cahier(自由・面従腹背・闘う勇気)

*最近、改めて「自由」というものの価値に就いて考える時間が多い。 「自由」という言葉を通じて、私が指し示したいと思っている対象は「何でも自分の思い通りにしたい」という風な、幼稚で独善的な欲望ではない。そもそも無数の時間的、空間的、物理的、社…

Cahier(「金閣寺」再読・紀州神話・作家の実存)

*三島由紀夫の「沈める滝」(新潮文庫)を読了したので、今は同じ作者の誉れ高き代表作である「金閣寺」(同上)を再読している。きちんと読み返すのは十年振りではないだろうか。改めて、その緊密で観念的な文章の厳密な彫琢に惚れ惚れしている。 三島が「…

「労働」と「放蕩」の二元論(中上健次をめぐって) 3

引き続き、中上健次に就いて書く。 ③「系譜」をめぐる鏡像的な関係性 人間の生物学的な構造と秩序の内部に根源的な仕方で装填された「性愛」の原理は、否が応でも他者との間に複雑な関係性を織り成す。そもそも「性愛」の根本的な機能である「生殖」の原理自…

「労働」と「放蕩」の二元論(中上健次をめぐって) 2

引き続き、中上健次の「枯木灘」と「地の果て 至上の時」に就いて試論を書き綴りたい。 ②「枯木灘」の世界を支配する「愛慾」と「淫蕩」の原理 前回の記事で、私は「枯木灘」の世界において、繰り返し描写される竹原秋幸の「労働」に附与された「神話的な性…

三島由紀夫「沈める滝」に関する覚書 2

前回に引き続き、三島由紀夫の「沈める滝」(新潮文庫)に就いての感想を書く。 ②「快楽」という意味に包摂されない女体 数多の女と関係を持ちながら、絶えず相手の背負っている「現実的属性」との錯雑した交流を注意深く拒み、自らを「無名の任意の人間」と…

三島由紀夫「沈める滝」に関する覚書 1

三島由紀夫の「沈める滝」(新潮文庫)を読了したので、断片的な感想を書き留めておきたい。 ①「愛情」という観念を信じない男の肖像 三島由紀夫が「沈める滝」という作品の内部に植え付け、鋳造した城所昇という人物の如何にも観念的な造形には、仄かに「禁…

「労働」と「放蕩」の二元論(中上健次をめぐって) 1

①「労働」の神話的な性質、あらゆる「記憶=意味」からの離脱 中上健次は「岬」から始まる所謂「紀州サーガ」を書き上げることによって、時代に冠たる偉大な作家へ成長したと看做すのが、世間に流布する通説である。批評家の柄谷行人は、盟友である中上健次…

ハラスメント、即ち「関係性の事故」に就いて

先般、財務省の福田淳一事務次官が、テレビ朝日の女性記者からセクシャル・ハラスメントの廉で告発され、メディアや国会は大騒ぎになっている。私は事態の審らかな経緯を理解していないが、告発された当人は自分の言動がセクハラに該当するとは認めず、寧ろ…

己の善性を誇張する勿れ

自分では如何に厳しく冷静に現実を見凝めている積りであっても、人間の主観には必ず生得的な偏倚と後天的な歪曲の二つが絡み付いているものである。純然たるリアリズムというのは理論的に想定された不可能な観念に過ぎず、実際の生身の人間は決して「純然た…

三島由紀夫「禁色」に関する覚書 5

目下、三島由紀夫の「沈める滝」(新潮文庫)を読んでいる最中なのだが、不図思い立って再び「禁色」(同上)に就いて考えたことを備忘録として書き遺しておく。 ⑤同性愛の形而上学的性質と「享楽」 私は同性愛というものの実態に就いて具体的な知見を持たな…

Cahier(「沈める滝」・作家主義・mysticism)

*三島由紀夫の「潮騒」を読み終えて感想文を書いたので、今日から同じ作者の「沈める滝」(新潮文庫)を繙き始めた。未だ冒頭の数ページしか読んでいないので、具体的な感想など書きようもないが、主役の城所昇の人物像には「禁色」の南悠一と「青の時代」…

清浄なる異性愛の幻想曲 三島由紀夫「潮騒」

三島由紀夫の「潮騒」(新潮文庫)を読了したので、感想を書き留めておく。 新潮社文学賞と称する栄典の第一回を授与された「潮騒」という小説が、三島由紀夫の文学的経歴においては極めて異色の風合いを備えた作品であることは、多くの論者によって指摘され…

幸福に堪えられない人間

人は誰しも幸福であることを願うものだが、幸福には厄介な側面が備わっている。それは「何事も起こらない平穏に順応する」という論理的構造を含んでいるが、その幸福な平穏は必ずしも人を満足させない。退屈は人を殺しかねない。古伝に「小人閑居して不善を…

「共同性」への普遍的な欲望

人間は誰しも、自分と他者とを隔てている根源的な境界を打破し、超越したいという欲望に精神を搦め捕られている。この普遍的な欲望を簡潔に「共同性への欲望」と名付けてみたい。自分という孤立した個体の枠組みから離れて、絶対的な境界線を踏み越えたいと…

三島由紀夫「禁色」に関する覚書 4

引き続き、三島由紀夫の「禁色」(新潮文庫)に就いて書く。 ④或る芸術家のサディズム的な欲望(「精神」と「感性」の二元論的構図) この作品の前半を占める物語の主要な枠組みは、老齢の作家である檜俊輔の迂遠な復讐譚である。彼は過去に数多の「愚行」を…

三島由紀夫「禁色」に関する覚書 3

引き続き、三島由紀夫の「禁色」(新潮文庫)に就いて書く。 ③「妻」の視点とストイシズム 物語の後半で、養子縁組した愛人を悠一に寝取られた男が、逆恨みの余りに悠一の同性愛を告発する手紙を、南家に送り付ける場面が登場する。悠一は自分が異性愛者であ…

三島由紀夫「禁色」に関する覚書 2

引き続き、三島由紀夫の「禁色」に就いての感想文を認めておく。 ②「鏡の契約」とナルシシズムの虜囚 「禁色」において、檜俊輔が企てた女たちへの陰湿且つ残酷な復讐は、南悠一の「絶世の美青年でありながら、女性を愛する能力を持たない」という人間的な特…