潮風が遠くから
帆を立てて近づいてくる
砂浜に白く煙る複数形の記憶、男女
波打ち際の静かな日かげで
手を振りました
けんめいに
もう最後だし
夏は
急速に終わりを迎える
陽炎がアスファルトに揺れて
買ったばかりのアイスキャンディが
汗ばんで溶けて
水を浴びたティーシャツ
鳴いている複数形の蝉、潮騒
沖合に浮かぶ影絵のようなボート
帰らないものに憧れても
機嫌が悪くなるだけですね
夏は
雲の狭間に吸い込まれていきました
さよなら、渚
もう手紙は書きません