サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「蛍火」

静かにしてください

すぐに逃げてしまうから

水路のなかから聞こえる

清らかな音のつらなり

宵の口の

物哀しい調べ

あなたのサンダルが立てる音

わたしの団扇が風を裂く音

晩夏の

取り残されたような みじかい休暇

若いあなたは

傷を知らない

流れる血の

重さも熱さも知らずにいられる

 

出会いは

あらゆる脈絡を越えて

事故のように

俄かに魂を滾らせる

夏祭りの囃子が

鼓動のように遠くからつたわる

つないだ手が

強く燃える

 

浴衣の袖が

風に揺れる

夏は生き急ぐ

なまぬるい風を吐いて

もう会えないと分かっているのでしょう

鞄のなかの

新幹線の切符

期日は決まっている

それはまるで運命のように決まっている

 

静かにしてください

消えてしまうから

夜露のように

蛍火は舞う

円を描いて

蒼白い光の軌跡

つないだ手は

おぼえているのだ

未練がましく

ここにはいない誰かの

香水の匂い

切なさの調べ

単純な生活

忘れないでください

すべては過ぎ去ってしまう

生きていることさえ

一瞬の閃光のように

頼りにならないものなのだから

 

できることなら

わたしを愛してください

たとえそれが

この蛍火のみじかい持続のように

ひと夏で終わる

束の間の幸福に似ていたとしても