サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「スイッチ」

責めても無駄でしょう

誰かがそれに触れたのですから

ブレーカーが落ちるように

使用量が容量を超えたのです

あふれだしてしまったのです

覆水

盆に返らず

掌を返したように

あなたは顔を背けます

その横顔に

水銀灯の光がにじむ

 

心変わりという

美しい言葉

昔の人も

私と同じ

とまどいのなかで

この単語を発明したのでしょう

使い勝手のよさで

爆発的に普及

今夜もすべての街角で

この言葉が

それぞれの心の虚に

蝉の声のように響き渡る

 

もう必要ではなくなりました

需給のバランスは崩れました

あなたは遠くへ行くのでしょう

空の広さに憧れてしまったのだから

畳んでいた翼に

爽やかな風を感じたのだから

もう迷う必要はない

あなたは高らかに空を飛べる

そして私は

地上に取り残された

信号機のように

遠ざかるあなたの影を

見送っている

風雨があなたを襲い

太陽が闇に没したとしても

あなたが振り返ることはない

あなたの翼は

この大空の

透き通るような風をとらえたのだから

 

行けるかぎり

あなたは飛ぶのでしょう

だから私も

あなたを忘れて

纜をほどき

明日の方角へ

静かに漕ぎ出します