サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「削除しますか」

削除しますか(はい・いいえ)

躊躇は

あなたを不幸にしますよ

過去は過去

あなたはいつまでも思い出を大事に抱きしめて

その香りに顔を埋めているけれど

過去は過去

過ぎ去ったものたちは

すでに命をもたない

 

振り返ることは

あなたを不幸にしますよ

履歴をいつまでも

辿りつづけるのは

あなたの心のもっとも脆い部分にできた腫瘍

別れの瞬間から

記憶は価値を失う

共有されない記憶に

捧げる花束はない

だから一秒でも早く

あなたは決定ボタンを押すべきだ

 

スクロールする画面に

果てしない行列のように

顔を出しつづける

あなたの名前

それを美しい思い出と重ねないで

思い出が美しいのは

それが叶わぬ夢だからでしょう

ペンキで汚してしまえばいいじゃないですか

どうせもう

使わない思い出です

酒の肴にも

なりゃしない

 

未練は

あなたを不幸にしますよ

眼裏に焼きついた様々な風景

携帯のフォルダに残された

二人の絆を物語る多彩なデータ

そんなものを抱えたまま

明日

どこへ行くというのですか

後ろを向いて運転はできない

サイドミラーは

よそ見するためにある訳じゃない

心が凍りついて

別れの電話の声が

鼓膜をモーターのように顫えさせる

不良在庫は処分すべきです

去ってしまった人は

もうずっと遠くの方にいるのですから

 

削除しますか(はい)

これですべては終わりました

ジェットコースターのように

二人で紡いだ麗しい物語も

今日を限りに忘れ去りましょう

大きな空白が

あなたを波のように包み

誘拐する

浜辺に刺さった貝殻のように

白く洗われて

純度を増していく澄明な孤独

だけど安心してください

モリーの空き領域には

これから無限に美しい思い出を書きこめるのです

降り積もる雪のように眩しい

真新しい恋人の笑顔も

白紙に戻ったフォルダのなかに

しまっておける

振り返らないで

振り返れば地獄へ連れ戻される

別れ話の苦しかった夜へ

冷たい瞳を

背けられた夜へ