サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「CERTAIN」

時間が流れ

季節が巡り

落ち葉のように記憶は積もり

絆はさまざまな場面で

伸び縮みを繰り返す

古い歌が聴こえれば

急に私たちは過去へ連れ去られる

時計の針が

逆行を始める

眩しかった風景が眼裏に

美しい彩色で再現される

 

何の役にも立たないはずの

過ぎ去った日々の記憶が

私を束の間の

ものうい快楽へ突き落とす

かつて身近だった声が

今は他人のようにそらぞらしい

あらゆる建築は廃墟へ向かう

あらゆる生命が予定された死を懼れるように

 

あなたは冷たいから嫌いだ(あなたはいつでも冷静だから好き)

あなたは子供がいるから嫌いだ(あなたは苦労を知っているから好き)

あなたは理窟を重んじるから嫌いだ(あなたは知性があるから好き)

あなたは気が短いから嫌いだ(あなたは戦うことを知っているから好き)

あなたは無神経だから嫌いだ(あなたは個性的だから好き)

あなたは自己中心的だから嫌いだ(あなたは自分の気持ちに素直だから好き)

あなたは

もう必要じゃなくなったから嫌いだ(あたしがあなたを必要とするときだけそばにいてよ)

 

消せない怨みを

鞄のなかに閉じこめたり

靴箱の隅に隠したり

あらゆる手立てを尽くして

不死鳥のような過去に抵抗する

恋心は海岸の白く清らかな砂で作られています

どんなに弱々しい波でも

砂の城を突き崩すのは簡単なことだ

数え上げられた理由はかつて

あなたが私に惹きつけられた理由の

変奏ではないのですか

当然の疑問を

タバコの空箱のように

利き手で握りつぶして

夜道に捨てました

 

時間が流れ

季節が巡り

飛行機から降りるように

あなたは瞬間的に気持ちを切り替えた

乗り換えることは罪ではなく

目的地へ到達するための

必要な選択です

自己正当化の言葉

乗り換えることが愛に対する忠誠であるならば

その柔らかな唇を

蝋で封じてしまいたい

 

孤独をおそれる弱いこころが

互いを結わえつける透明な磁力だった

その瞬間だけを切り取れば

愛はいつでも美しく純白

けれど別の角度から眺めてみれば

私欲と不信が複雑に入り乱れて

大理石のような模様を描いている

ただ愛した日々の清々しい記憶だけが残る

その記憶に一銭の価値もないことを

痛切に知りながら

 

生きるほどに

思い出ばかり増えていくけれど

確かなものは

何ひとつ残らないね

指の隙間から

こぼれる砂に喩えられるような

この切々たる寂寥を

人類は何万年も引きずっている

ロープが擦り切れそうになっても

積み荷の重さは変わらない

 

確かなものを求めているんだ

絶対に変わらない

永遠の絆

せめて死ぬまで続く

有期の永遠でもかまわない

色褪せない笑顔を見つめていたい

古いアルバムを溝へ捨てる

懐かしい映画の半券をシュレッダーにかける

あなたの欠点を考えられるかぎり思い出して

執念深くツイートする

永遠という言葉をとりあえず馬鹿にする

シニカルであることを己の美学に採用する

だけど本当は

そんな不毛な砂漠で

陽射しに身を焼かれていたくはないのだ

埋められない寂寥に

劣化したプルトニウムを注ぐようなことはしたくない

確かなものは何も残らないけれど

いずれまた

心は誰かに惹かれていく

誰かの笑顔に

誰かの優しさに

歯車に絡まった私の心

愛別離苦の流転の渦中(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏