サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「INTIMACY」

部屋を選ぶ(画面だけでは差が分かりづらい)

値段を確かめる(休前日は値上がりする)

愛し合うために

長い夜の深みのなかで

互いの存在を確かめる

腕耳朶指先腋臍肌唇項涙髪性器陰毛

息苦しさも愛しさの一環だ

他の部屋でも同じ行為が営まれている

土曜日の深夜の駅前のホテルは

吐息で硝子が曇っている

 

街は寒々しい夜気に覆われている

じゃっかんのアルコールが

私たちの理性に

淀みをあたえる

体温は上がり続ける

サーモスタットが壊れているのか

灼熱の皮膚がこすれあって

つらいぐらいなのに

一線を越えるための

様々な手続きを踏んで

この夜の暗がりに

たどりついた

 

親密であること

あらゆる垣根から

自由であること

いかなる距離も埋めてしまいたくなること

人間であることの否定

主体性の解体

あなたを見つめるまなざしの

狂ったひたむきさ

そんな幻想が

いつまでも長続きするはずはない

誰もヒトとヒトとの間に築かれた壁を

突破することなんてできない

だけど或る刹那

熱望してしまうのだ

特にこんな渇いた夜更けには

あなたとのあいだに

一ミリの距離もありはしないと思いたいのだ

 

愛すること

それがなにを意味するのか

混乱して分からなくなることもある

親密であることへの

切ない欲望が

なぜ私の魂を揺さぶるのか

その理由がつかめないときもある

そしていつか

冷めるときが訪れて

私は立ち尽くす

それは一つの尊い目覚め

瞳を覆っていた艶めかしい薄絹が

とりはずされる瞬間

世界は風景を一変させる

甘い夢から解き放たれた

起き抜けの顔で

じぶんの居場所を手探りで確かめる

 

わかれの歌は無限に増える

わかれは私たちの魂に課せられた

深刻な法律だから

だれかがそれを歌うたびに

私たちは立ち止まって耳を澄ます

だれでも

その哀しみを知らぬ者はない

その胸を劈く痛みを

知らぬ者はない

街角で

帰りのホームで

自転車のうえで

不意に立ち止まって

耳をそばだてると聞こえる

だれかが今日も

辛い別れを

さけぶように歌っているのが聞こえる

みんな眼を閉じよう

そして

見知らぬ歌声に

しばし耳を傾けよう

叶わなかった愛の名残を

慈しむ魂の調べを