サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

「サラダ坊主日記」新年の御挨拶(2019年)

 新年明けまして、おめでとうございます。サラダ坊主で御座います。本年も何卒宜しく御願い申し上げます。

 私は相も変わらぬ小売業渡世の身の上で、世間が足並み揃えて一斉に休む盆暮れ正月も遽しく身を粉にして働かねばならぬ立場であります。世の中は愈々明日から仕事が始まり(未だ休暇が続きますという羨ましい身分の方々もおられましょうが)、帰省や観光旅行に疲れ果てた躰を引き摺って憂鬱な気分で三が日の日没を眺めた方も、愚図愚図と過ごした寝正月を今更悔やんでも悔やみ切れぬ大変な過ちのように感じて蒼褪めておられる方も、否が応でも再び社会の歯車と化して荒波の大海原へ漕ぎ出す準備を整えておられる頃でしょう。私は三年続けて元旦から店を開けている強欲な百貨店の中の店舗に責任者として籍を置いており、歳末大晦日の熾烈な商戦を辛うじて生き延びても、一息吐く遑も授からぬまま、翌朝もまた朝焼けの片鱗すら窺われない月夜の時刻に起き出して、凍てつくような寒さのアスファルトを踏み締めて京成電車に揺られ、初売りの戦場へ飛び込んでいくという何とも疲弊する正月を迎えました。

 毎年、ブログの年頭の挨拶に仕事の愚痴ばかり垂れ流すのも聊か下品で興醒めな話であろうかとは思うのですが、何しろ正月を迎えて最初の休日に拙い稿を起こすとき、決まって私の痩せて貧弱な肉体には必ずクリスマス及び歳末の商戦の夥しい疲労の残滓が燻っているのですから、自ずとそこから筆先が躍り始めるのも詮方ない話であろうと御諒解を願いたく存じます。

 旧年中は、傍目にはそれほど騒々しく見えずとも、当事者の胸底においてはなかなか変動の劇しい日々を過ごし、彼是と凡庸な失態に思い悩むような生活を送って参りました。私生活では私が淫蕩というか軽率というか、如何にも卑俗な道徳的悪事を働いて波乱が起り、仕事の上では商売の環境が変わって非常に厳しい数値結果と毎日睨み合いながら対策を練り、何かと消耗の著しい一年でありました。学ぶことも多く、反省することも多く、貴重な経験が盛んに積み上がったとも言えます。

 一昨年の晩秋から始めた、集中的に三島由紀夫の小説を精読し、その感想文を認めるという計画は事前の想定よりも快調に進捗し、旧臘の末には辛うじて「天人五衰」を読破しまして、目下は短篇集の渉猟に着手しております。此処数箇月は「豊饒の海」に関する記事を延々と投稿し続けてきましたが、つい先日、それらの記事の裡の一つに「回りくどい文章^ ^ ナルシストか?三島気取り?」という中身の薄いネガティブコメントを掠れた墨痕のように記されて、年始早々腹を立てました。別に何を言われようと構わないと言えば構わないのですが、他人の記事なり言行なりを難じるのならば、もっと言葉を紡いで粘り強く批判して頂きたいと思います。単なる鼬の放屁のような言葉の礫を通りすがりに投げつけられたのでは、応酬も糞も成り立ちようがありません。恐らくは正月休みを持て余した呑気な暇人の所業であろうかと推察しておりますが、糖衣の如く繊弱なレッテルを繋ぎ合わせて、何か相手の急所を突いたような気分で溜飲を下げるという遣り口は、如何にも矮小で卑俗な手法であります。愚昧で短絡的な通り魔と同じではありませんか。自分の文章が回りくどいのは、誰よりも私自身が存じ上げておりますし、書きながら容易に言いたいことを掴み切れずに泥濘の深みへ腰までずぶずぶと嵌まり込んでいくような呼吸の苦しさが、愈々要約し難い混濁した文章を醸成するという悪循環の構造も十全に承知しております。三島気取り云々は、何を以て三島気取りと見做しているのか、論拠が明示されておりませんので反駁のしようもありませんが、一年余りも三島の作品ばかりに没頭し、その悪魔的な文章に耽溺する日々を送って、如何なる影響も蒙らないようでは、私の固まりかかった脳味噌は完璧な故障に苛まれているに相違ありません。ナルシスト云々は、人並みにナルシストでありますとお答えするより仕方がありません。ただ、それら個別の言辞の当否は兎も角措くとしても、仮に私が「三島気取りで回りくどい文章を書くナルシスト」だったとして、それがどうしたというのか、という点に就いて如何なる論述も表明もないことが気に喰わないのです。批判自体が頗る上っ面で、セロファンのように透明で、要するに虚しいのです。三島を気取ることの弊害、文章が回りくどいことの弊害、ナルシストであることの弊害に就いて、もっと明晰な説明を賜りたいものです。

 仕事の愚痴と他人への難詰で新年の御挨拶に代えるというのは、如何にも私の度し難い人格的欠陥を如実に証しているようで心苦しいですが、事実を虚飾で覆ったところで何の御利益も得られませんから、このまま公開致します。皆様、何卒本年も「サラダ坊主日記」を御贔屓に御願い申し上げます。