サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「ためらいがちに」

いつから

気づいたのでしょうか

ずっと忘れていた

とまどい

微かに記憶しています

こういう風に

心を騒めかせる瞬間があることを

ためらいがちに

名前を呼びます

ぼんやりと眺めていた水槽の向こうに

細くてきれいな月が昇っていた

 

若気の至りという言葉が

通用しないほどには 齢を重ねて

それでも成熟するには まだ早すぎる二人に

ときどき星の光が 雪のように積もり

想いが募り

一瞬の閃光のような日常の合間に

知らず知らず重ねられ 蓄えられていた夥しい電気

指先で弾けた ふたすじの眼差し

温度が 知らぬ間に上がっていたのですね

測りかねている あなたの感情の密度 温度 速度

眠れない夜が増えていきそうな 気配に

あたしはそっと呼吸を整えます

始まりかけている 物語に備えて

 

夏が来る

そう遠くない 日数の涯に

純白の砂浜

はしゃぎ立てる人々の声

あなたは青白い横顔に

剃り残したひげも構わず

自信のなさそうな脇役の素振り

ねえ もっと思いきり笑ってよ

沈黙を

言葉よりも雄弁だと信じないで

へたくそでも構わないのに

強がって

思慮深くなって

身動きのとれなくなる

お決まりのパターンを

あたしのために踏み越えてよ

図々しい御願いかしら

でも あなただって本当は

この境界線を またぎたいんじゃないの

 

ためらいがちでもいい

そっと優しく触れるだけでもいい

まとまりのつかない その魂の中身を

光のなかに 思い切ってさらして

水を浴びた

太陽のように

世界の中心で笑ってみせてよ

物語の一ページ目が

開かれようとしている 初夏の通りを

無邪気な笑顔で 歩いてみせてよ