遠い海から
吸い込まれるように
この船縁へ
辿り着いた影
あなたは
なかなか笑わなかった
古代の魚類のような面貌
世界史から
忘れ去られた
一幅の絵画
記念写真を
撮りましょうよ
忘れ難い夏の一日のために
この束の間の閃光さえ
明日には朧げな記憶に変わるのだから
遠い海原の涯に
そそりたつ積乱雲の白い横顔
あなたはなかなか笑わないのね
背中に受けた
傷痕の深さのために
でも
トビウオは翼がなくとも風を切って翔べる
走り出すことに
ためらいは要らない
時計の文字盤を恨めしげに見つめるまえに
靴紐を結び直すことはできるでしょう
高く上げた顎
まっすぐに伸びるまなざし
希望は光よりも眩しく
世界は人間よりも優しい