サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「感謝祭」

ところどころ
消え残った音楽の航跡が
何かを告げようとしている
すくなくとも
貴方はこの部屋にはおらず
その靴も外套も
夏の宵闇へ すでに走り去った
遺された想い出は生乾きで
抱き締めると ひどく臭う
貴方は私に向かって
とても感謝していると言った
微笑みながら言った
その矛盾が 私には堪え難く思われた
夏の宵闇は
群青色に光っていた
探そうと思えば
まだ間に合うのだろうか
この雑踏を潜り抜けて
混み合う改札口を
足早に通り抜けて
脳裡に焼きつけられた
面影を探し求めればいいだけだ
けれども
古びた時計の振り子の音が
私の背中を強く引き止める
「無益」という文字が
私の鼓膜に或る痛切な周波数を届ける
もう手遅れなのだと知っているのだ
だから
五臓六腑が説得を試みるのだ
幻想に憑依された
脳味噌に向かって
それは虚しい悪あがきだと
哀しい声で歌うのだ
私だって本当はもちろん知っている
もう手遅れなのだと
それを意味する 特例の微笑であったのだと知っている
貴方は辞去し
この部屋の空漠たる風景は
夏の宵闇の放つ
薄明るい燐光のなかで
吐息だけを溜め込んで肥えていく
腐臭を醸しながら
想い出がいま
急速に色褪せていく