サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「残骸の歌」

帰ってきたのだ
久方ぶりに
懐かしい風景
懐かしい空と森林
葉叢に潜んで
息を殺す生き物たちの息遣い
だが
何もかもが覆され
赤土はめくれていた
剥き出しの地肌に
白々しく林立する混凝土の建物
俺は漸く
この場所へ帰ってきた
猛禽の唸り声が聞こえる
俺の帰りを
待ちわびていたのだ
何も知らずに
高い塀の内側に囚われて
下らぬ苦役に
特段の苦痛も覚えず
幾たびも甦る陰惨な光景に惑わされながら
俺はこの日が来るのをずっと待っていた
お前たちも待っていた
めくれあがる赤土の悲鳴

混凝土の
柱の間を
俺は何度も往来した
想い出の欠片が蹠の皮膚を突き刺す
俺の想い出はもはや
過去の残滓として貶められ
誰も顧みることがない
幾たびも車を乗り降りして
堪え難き苦しみの打ち寄せる浜辺を歩き
俺は嘆きの奥底で時を計えた
何がこれほどまでの変貌を齎したのか
時空の彼方に息を潜める
野蛮な魔物の正体を見究めるために

帰ってきたのだ
何もかも失われた夕べ
新盆の家並に
広がる静寂の音楽
俺たちはもう何もかも奪われてしまい
その代わりに得られたものは所詮御仕着せだ
俺は俺自身を何時の間にか見失ってしまった
残骸だけが転がる街角
残骸の
声だけが鼓膜を揺さぶる

ブルドーザーと
巨大なトラックの
劇しい往来の傍らで
俺は滲み出す清らかな地下水を眺めている
この街の古い歴史の地層からあふれでる
その嘆きと苦しみの血飛沫に
眼を奪われているのだ
俺は漸くこの土地へ帰ってきた
たとえ総てが破壊された後だとしても
俺は確かに故郷の息吹を感じているのだ