サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「約束」

そもそもの始まりから
こうなることは知っていたでしょうと
大人びた世界が冷たく笑う
諭すふりをして
罰しているのだ
触れれば火傷するものを欲するのは
愚かな子供の習慣だと
世界は嘲るように
舌を鳴らす
わたしは半ば憤っている
そんなことは知っているさ
そんなことは知っている積りでいたさ

失われていく愛の痛みなら
心当たりがある
それに堪えて
再び立ち上がるための
知識だって持っている
けれど
引き裂かれることの痛みは知らなかった
愛して
愛されて
それでも別々の道を歩まなければならない
その苦しみは知らなかった
あなたの掠れた声が
この鼓膜を打ち鳴らす
わたしは
あなたを愛する資格を持たない
わたしには
他の人々への
責任があり
窓の外では
生ぬるい早春の雨が降っている
平静を取り戻すべきだと
束の間の情熱に引き摺られてはならないと
言い聞かせて
幾度
寝苦しい夜を踏み越えただろう
あなたの愛情を
求める資格もないのに
願いは叶えられて
むしろ見限られるよりも苦しい生き地獄に
わたしは水死体のように浮かんでいる

愛することが
罪になるという
不可解な暗がりで
わたしは何を信じればいいのか
逢わないことが二人のためだと
忘れてしまうことが
押し殺してしまうことが
未来のためだと
掠れた声で
自分自身を説得して
もう最後だと伝えたのに
別れ話のために
顔を合わせたはずなのに
その約束の
無味乾燥な白さ
わたしの心には
深紅の血が流れている
誓約書の白さを
ものすごい圧力で
濡らして
穢してしまう

わたしの心臓は
この皮膚の下にあり
たえず力強く脈打っていて
しかし
交わした約束には
二度と逢わないという約束には
裏切られた心臓の
聞こえない叫び声が
こだましている
なぜ
愛することが罰せられるのか
愛することが禁じられた場所で
わたしは醒めない夢を
じっと見つめていることしか出来ない