サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「舞踏会」

少しのあいだ

分かたれていた絆が

航空燈の下で束の間 揺れた

わたしたちの他愛ない祈りが

最後の音楽のように

会場を揺らした

漣が伝わり

わたしたちは合図を耳にした

夜が終わろうとしている

拉がれた靴底の擦れるような呻き

 

わたしたちは何を考えていたのだろう

緩やかに計えられた札束の暴力

つないだ指先が汗ばんでいる

流した視線が閃くような鋭角を刻んだ

足音が高まり

薄暗い橙色の明りが庭先まで伸びた

夜明けの程近い街路へ出よう

華美な衣裳を脱ぎ捨てて

冷たい石畳の上を犬のように走る

わたしたちは時間に追われている

さようならと言いたくなくて

 

正午の飛行機で

あなたは大陸を跨ぎ

わたしは閾のこちらで一つの退屈な日を過ごす

時間が蜂蜜のように粘り とどこおる

手紙を書くよとあなたは言い

返事を書くわと 

わたしは答える

舞踏会の酩酊が脹脛に残っている

束の間の逢瀬の

電熱線のような痼り

ひんやりと流れる暁の鋪道で

わたしたちは何か突拍子もない事件が起こるのを待っている

生活の曲がり角で

偶然が宿命を撲殺するという期待へ

一縷の望みを賭けている

 

空港まで向かうバスが

道を間違えてくれたら

そして飛行機が往ってしまったら

訣別は朝露のように立ち消える

わたしたちは夜会服を脱ぎ捨てて

髪を解き 窮屈な挙措を擲ち

真新しい鞄のようにくっきりとした輪郭を失う

さようならと言わずにおこう

あの飛行機が

あらゆる空を知っているとは限らないから