サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「駅」

電車が

風を巻いてはしりこむ

線路からホームへ

舞い上がる冬の風と

人々のざわめき

夜は一目散に

闇へ溶けていく

まだ帰りたくない

まだ離したくない

つないだ手を

からめた指を

まだ今は

ほどきたくない

 

秒針が回る

黙々と

残酷に

それまで他愛のない会話で

笑っていたあなたの眼に

一瞬

真剣な光が燈る

ほどいた掌を

奪い返すように

流れる時間にさからうように

時刻表を

破り捨てて

この束の間を

永遠にかえようとする

 

永遠など

ありえないと

誰もが口を酸っぱくして

言い聞かせるのに

どうして

始まってしまえば

それを望むのだろう

逢えば

抱かずに

いられぬように

 

永遠は

絵空事だと

知っているから

見えない距離に

怯えるあなた

嫌われることに

躊躇するあなた

そうやって徐々に

ボタンを掛け違えていくのだと

あなたは知っているのだろうか

幼い瞳を二つ

いつも明るく燦めかせて

わたしを見るあなたは

 

夜風が

改札を吹き抜ける

眠ることを忘れた二人は

朝が来ることに苛立つ

夜明けが夢の痕跡を

洗い流してしまう

永遠などありえないと

夜明けの街がささやいているのに

耳をふさいで

二人は歩きだす

 

終電車

ホームへ姿を現した

階段を駆け上がる

人々の流れから隔てられた場所で

あなたはわたしの腕をつかむ

駅は

別れるための場所であり

密かに落ち合うための場所でもある

鼓動が爆発の予感に身構える

くちびるが

濡れて

音を立てる

あなたの柔らかな髪の毛は

日付の変わった駅のコンコースで

静かに何かに怯えている

愛していますという言葉は

すぐに風化する

いずれ眼差しが

掌の温もりが

逢瀬の頻度が

その言葉を裏切りはじめるだろう

でも

理窟では

わかっていても

なぜ、こんなに

なぜ、こんなに

 

寄り添えば

まるで憎しみのようにわたしを

深く強く涵すもの

カラダがこわばる

奪いたくなる

力ずくで

昨夜のウイスキーは言い訳につかわない

こころが

前から

求めていたのです

それを愛情と名づけることに

いつまでも赤児のように

ためらい続けていただけで

 

武蔵野線新松戸行き最終電車

紅い文字が遠くでゆれている

でも呼吸をとめられたように

動けないのは

あなたの瞳のなかに

流れる

別の案内を読んでいるから

それはほんとうに

繊細な文字で綴られた言葉

明け方の窓を覆う露のように

たやすく消えてしまいかねない

薄墨で記された祈り