2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧
引き続き、三島由紀夫の自選短篇集『花ざかりの森・憂国』(新潮文庫)に就いて書く。 「海と夕焼」と題された聊か抒情的な短篇は、作者自身が巻末の明晰な自註において述べている通り、三島にとって極めて重要な含意を帯びた観念である「奇蹟」を巡って構成…
*二歳の娘からインフルエンザウイルス(A型)の御裾分けを頂戴したので、会社を早退して炬燵で暫く寝込んだ。インフルエンザを患うのは実に十余年振りの経験である。今もキーボードを叩きながら、蟀谷に疼くような熱の塊を感じている。さっさと寝てしまえ…
ここ数年、主として芸能人の不倫関係に関する批判的な報道が巷間に氾濫し、渦中の当事者たちは矢衾のように猛烈な批判を浴びて、社会的な制裁を享けた。私人による制裁を禁じた近代法の理念を蹂躙するような振舞いであるが、彼らの境遇を憐憫する声は特に聞…
*私は小さい頃から「文章を書く」という営為に対して特別な関心を懐き、拙劣な小説や詩歌の類を書き散らしたり、訳の分からぬ断片的な独白の文章を有り触れたノートのページに刻み込んだりする、奇妙に情熱的な時間を夥しく積み重ねて生きてきた。三十三歳…
引き続き、三島由紀夫の自選短篇集「花ざかりの森・憂国」(新潮文庫)に就いて書く。 生まれたばかりの赤ん坊は、世界の宏大無辺であることを知らない。嬰児にとって他者は母親と父親に限られ、しかも自己と両親の境目は限りなく曖昧模糊としている。時間の…
*愛情という言葉は、誰もが自然な道具のように容易く滑らかに使いこなしているように見えるし、誰もが共通の感覚を指し示し、分かち合う為に、頗る流暢な発音で「愛」という単語を選択しているように感じられるが、それが果たして誤解ではないと言えるだろ…
*最近、部下の男性社員が同棲していた年下の恋人と別れて、落ち込んでいる。尤も、私と同い年の男だから、子供みたいに陰鬱な雰囲気を職場で醸し出しているという訳ではない。仕事は仕事できちんと取り組んでいる。だが、茫漠たる寂寥や虚無の感情は如何と…
引き続き、三島由紀夫の自選短篇集『花ざかりの森・憂国』(新潮文庫)を読んでいる。 「卵」と題された短篇は、三島由紀夫の遺した作品の中では、異彩を放つ部類に属していると言えるだろう。こういう表現が適切であるかどうか分からないが、明らかに「卵」…
①「脆弱性」(vulnerability)の問題 人間は誰でも多かれ少なかれ孤独に弱く、他者からの愛情や承認に飢え、孤立よりも連帯を愛することの多い生き物である。孤独は、それだけで人間の精神や肉体から、社会性という言葉で指し示されるような類の双方向的な開…
引き続き、三島由紀夫の自選短篇集である『花ざかりの森・憂国』(新潮文庫)を少しずつ繙読する日々を過ごしている。 戦後に執筆され公刊された「遠乗会」という短篇は、最初期の部類に属する「花ざかりの森」や「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日…
①「性暴力」の排他的原理 昔に比べて統計的に増えているのかどうか知らないが、最近テレビやネットのニュースを眺めていると、随分と性犯罪に関する報道が頻繁に挙げられているように感じる。セクシャル・ハラスメントに関する社会の認知度は着実に向上して…
*平成最後の正月が来た。四月一日に新しい元号が公表され、五月一日に新しい天皇陛下の即位の礼が行われる。世の中には「平成最後の」という枕詞が濫れ返り、私自身も小売業の現場に身を置いているから、尻馬に便乗して「平成最後のクリスマス」などと叫ん…
引き続き、三島由紀夫の自選短篇集である『花ざかりの森・憂国』(新潮文庫)を繙読している。 「花ざかりの森」に加えて、三島の遺した作品の中では最初期の部類に属する、この「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」という奇怪な表題の小品…
三島由紀夫の畢生の大作である「豊饒の海」全巻を読み終えたので、今は同じ作者の短篇集を渉猟することに時日を費やしている。目下、繙読しているのは『花ざかりの森・憂国』(新潮文庫)に収められた小品たちである。 作者が十六歳の若さで書いた「花ざかり…
十九世紀のフランスに発祥したと言われる「百貨店」(department store)という業態が斜陽の季節を迎えてから久しい。市場規模は既に対極的な業態である「コンビニ」(convenience store)に追い抜かれ、その凋落の趨勢が底を打つ気配さえ見えない。三越伊勢…
新年明けまして、おめでとうございます。サラダ坊主で御座います。本年も何卒宜しく御願い申し上げます。 私は相も変わらぬ小売業渡世の身の上で、世間が足並み揃えて一斉に休む盆暮れ正月も遽しく身を粉にして働かねばならぬ立場であります。世の中は愈々明…