サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2017-01-01から1年間の記事一覧

年の瀬雑感 2017

今年もぐんぐんと暮れていく。始まる前は果てしない地獄の回廊に思われたクリスマス商戦も、過ぎ去ってみれば一瞬の閃光のように儚い記憶である。昨年は金土日の三連休、今年は25日が平日ということで、売上の推移には変動があった。尤も、カレンダーの変…

「破滅」に対する抵当権 三島由紀夫「青の時代」

三島由紀夫の『青の時代』(新潮文庫)を読了したので、断片的な感想をばら撒いておく。 1948年に巷間を騒がせた所謂「光クラブ事件」(東大生による闇金融の起業と、その摘発)を題材に据えて紡がれた、この愉快な小説は(「愉快」という言葉の定義を捻…

Cahier(往く年の挽歌)

*十二月も折り返しを過ぎて、師走の風は益々靴音を高鳴らせている。 もう直ぐ年に一度のクリスマスが到来する。地獄のような繁忙期、夜明け前から起き出して、寒風の吹き荒ぶ暗い路地を歩いて、そこだけ目映く見える静謐な京成電車へ乗り込んで、職場へ赴く…

Cahier(成長・記憶・苦痛・恥辱)

*最近、改めて「成長」ということに就いて考えることが増えた。 このように書き出すと、何となく典型的な自己啓発系の記事だと思い込まれてしまうかも知れないが、例えば「成長のための具体的で明確な方法論10箇条」みたいなことは、残念ながら書けないし…

Cahier(師走・宿命・軍曹)

*年の瀬で、何かと忙しい。師走ともなれば、小売業に携わる人間は皆、来る日も来る日もフロアを駆け回ることになる。靴紐が千切れるくらいに忙殺されて駆け回るのは、何も僧侶だけとは限らないのである。 正月休みを心待ちにして騒めいている世間の空気を、…

「自立」に就いて

「自立」という言葉は当たり前のように気安く用いられて、誰にとっても耳に馴染のあるものだと思う。誰でも小さいときは親に依存し、何もかも勝手に整えられて、自分で難しい判断を積み重ねる必要も持たずに生きることが出来た。だが、大人になれば、そんな…

Cahier(繁忙期・「青の時代」)

*前回の更新から、思いの外、間が空いてしまった。 毎年、十一月の第三木曜日と定められているボジョレー・ヌーヴォーの解禁日辺りから、小売業の現場は俄かに忙しさを増し始める。特に百貨店は歳暮ギフトの早期割引で集客が上がり始めるし、十二月に入れば…

「死」という毒薬を弄ぶ男 三島由紀夫「盗賊」

先日、三島由紀夫の処女長篇小説『盗賊』(新潮文庫)を読了したので、感想を認めておきたい。 「仮面の告白」に先立って発表された「盗賊」は、三島由紀夫の遺した厖大で華麗な文業の経歴の中で、余り脚光を浴びない位置に佇んでいる作品ではないかと思う。…

Cahier(「盗賊」・文体・「作品」という芸術的単位)

*三島由紀夫の作品を集中的に読破するという俄仕立ての計画は、今のところ生温い速度で進んでいる。「仮面の告白」「愛の渇き」を読み終えて、今は三島の処女長篇と定義されている「盗賊」(新潮文庫)をのんびりと繙読しているところである。 私は漠然と「…

苦痛への欲望、或いはタナトス(thanatos) 三島由紀夫「愛の渇き」

三島由紀夫の「愛の渇き」(新潮文庫)を読了したので、感想を認めておく。 この作品の全篇に行き渡っている、或る陰鬱な雰囲気の由来を、一言で名指すのは困難な業である。何もかもが皮肉の利いた、底意地の悪い文章によって抉り取られ、無条件の肯定に晒さ…

Cahier(日常性・演技・滅亡・美学的理念)

*引き続き、三島由紀夫の「愛の渇き」(新潮文庫)を少しずつ読み進めている。 以前に書いた記事の中で、三島由紀夫の作品に表現された精神的形態を「演劇的メンタリティ」という言葉で括ってみた。私にとっても未だ、漠然とした概念に過ぎないのだが、良く…

Cahier(三島由紀夫・齟齬・仮装・心理)

*三島由紀夫の「仮面の告白」(新潮文庫)を先日読み終えたので、今は同じ作者の「愛の渇き」(同上)を繙読している。如何にも三島らしい、皮肉の利いた観念的な措辞が、じわじわと此方の精神に染み込んで来るような、苦い作品である。 「仮面の告白」は、…

「正常さ」への切迫した欲望 三島由紀夫「仮面の告白」

三島由紀夫の『仮面の告白』(新潮文庫)を読了したので、その感想文を認めておく。 三島の出世作であり、その代表作の一つにも計えられる「仮面の告白」には、所謂「処女作」に関する使い古された通説が見事に反映されている。つまり、或る作家の処女作には…

Cahier(衆院選・開票・改革・パフォーマンス)

*先日、衆院選が行われ、当初は政権交代の可能性さえ謳われていた、小池百合子氏の率いる「希望の党」が大幅に失速し、解体した民進党の残党から生まれた、枝野氏の「立憲民主党」が予想外の健闘を見せた。だが何れにせよ、小池氏と前原氏の間で生じた思惑…

歪んだ愛の精細な記録 ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」

九月前半からずっと格闘し続けてきたナボコフの「ロリータ」(新潮文庫)を読了したので、覚書を認めておきたい。 このペダンティックな文体で織り上げられた稠密な作品を、強いて要約しようと試みるならば、表題に掲げたように「歪んだ愛の精細な記録」とい…

Cahier(期日前投票・パネルクイズ予選会)

*荒天の中、朝から期日前投票に出掛けた。花見川区役所まで、シーサイドバスに揺られていく。同乗者は誰もいない。鬱陶しい長雨が、羽織ったチャコールグレイのコートに少しずつ染み込んでいく。悪天候の休日にわざわざ、バスに揺られて区役所へ向かう物好…

Cahier(反復・学習・詩歌・単一性)

*子供は同じ遊びを執拗に繰り返すことを好む。一度気に入れば、無際限に同じ行為を反復して、嬉しそうに笑い声を立てるのが、小さな子供の普遍的な習性である。そうした行為に付き合わされる大人は、時にうんざりして溜息を吐きたくなるだろうが、子供にと…

Cahier(引き続き「ロリータ」・読書における一方的な信頼)

*先月からずっと、ウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」を読み続けている。新潮文庫で漸く400ページの背中が見え始めた。ビアズレーという大学町での暮らしを引き払って、再び二人の壮大な逃避行が始まったところ、いよいよ本格的に不穏な臭気が漂い始…

Cahier(「正解主義」・誤答・恐怖・奴隷)

*自分の外部に絶対的な「正解」が予め存在していると信じ込む態度を指して、私は「正解主義」という用語を提案したいと思う。 正解主義者は、自分の内部に絶対的な規範や、譲れない信念というものを持たない。或いは、持っていても信じ切ることが出来ない。…

Cahier(方法・価値観・守破離・相転移)

*或る組織に属して労働に明け暮れる。年数が経ち、春が来る度に真新しい心身を携えた後輩が現れる。その繰り返しで、組織の新陳代謝のリズムは保たれ、旧弊な慣習にも徐々に罅割れが生じていく。 或いは、子供が生まれる。夫婦だけの静かな生活に、喜ばしい…

Cahier(三毒・懲罰への欲望・感情の制御・排除の論理)

*今日、と言っても日付が改まったので昨日の話ということになる。職場で少し腹立たしいトラブルがあり、久々に厳しい口調で通達を発した。些細なミスの積み重ねが生み出した状況に過ぎないことは確かである。私の指導と監督が不充分であったことも認める。…

Cahier(正義・愛情・無底性)

*随分と昔に書いた「『正義』と『愛情』は相容れない」という表題の記事が、何の因果か、この「サラダ坊主日記」の注目記事の欄に突如として姿を現し、数日間、その状態を維持している。表題だけは漠然と覚えていたが、どういう中身の文章を書いたのかは、…

Cahier(ラピュタ・宮崎駿・自然・人間)

*仕事を終えて十時過ぎに帰宅し、テレビの電源を入れると、金曜ロードショーで「天空の城ラピュタ」を放映しているところだった。 金曜ロードショーで、スタジオジブリのアニメ映画の再放送に出喰わすことは、少しも珍しい話ではない。子供の頃、母親がVH…

Cahier(解散・改革・希望・ポピュリズム)

*本日付で衆議院が解散した。総選挙の投開票が十月二十二日に設定されると共に、テレビ画面の向こうに広がる政治の世界は大荒れの様子だ。東京都の小池百合子知事が「希望の党」の代表に就任して結党会見を開き、離党者の続出でゾンビと化した民進党の前原…

Cahier(大人と子供・愛の飢渇)

*偶に自分の幼少期のことを思い出す。自分がどういう経緯を踏まえて現在の状況や人格に辿り着いたのか、その流れのようなものを時折、辿りたくなるのだ。それは必ずしも感傷に耽る為ではない。そういう側面が一切存在しないと言い張る積りはないが、その渦…

Cahier(ヨーロッパ・近代・小説)

*最近は専ら海外の小説を読むことに、乏しい読書の時間を充てるように意識している。ウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」を舐めるようにちびちびと読み進めながら、日本語のみを理解し、一度も国境線を跨いだ経験を持たない、生粋の島国根性の持ち主とし…

Cahier(ロヒンギャ・人道的危機・世界宗教)

*夜の十時過ぎに仕事から帰宅して、夕食の仕度が整うのを待ちながら、普段と同じ習慣に則って「報道ステーション」を見ていたら、ミャンマーで起きた大規模な人道的災害に関するニュースが流れていた。ビルマ語を操る仏教徒が人口の大半を占めるミャンマー…

Cahier(高野山・空海・虚構性・他者の「無答責」)

*先日、珍しく土曜日に休暇を取り、母親と弟夫婦を自宅に招いた。夕方からは、地元の神社の祭礼があり、近くの通りは歩行者天国と化して、道に沿って一面に露店が軒を連ねた。台風の影響で弱々しい雨が降っていた。 子供を風呂に入れた後で、居間のソファに…

Cahier(ナボコフ「ロリータ」・今後の読書計画)

*最近は仕事に追われつつ、専らナボコフの「ロリータ」(新潮文庫)をちまちまと読み進めている。現代文学の古典の一つに数えられる「ロリータ」は、その性的な内容ゆえに当初は出版が難しく、結局はフランスのオリンピア・プレスという、ポルノグラフィの…

芸術と記憶(あるいは「祈り」)

芸術とは「記憶」の異称ではないだろうか。 芸術は、一瞬を永遠に変えたいという欲望に貫かれている。或る瞬間の出来事を永遠に記録しておきたいという欲望だけではない。つまり、単なる事実の記録だけに留まらない。失われてしまった何かを再び甦らせ、明瞭…