サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「人間」のアレテーに就いて

私は外国語の知識や技能を一切持ち合わせていません。極めて初歩的な英文を漠然と読解し得るくらいの知識しかありません。つまり、ほぼ皆無だということです。 現代における平均的な日本人にとっては最も馴染み深い外国語である英語に関してさえ、そのような…

「人間的成長」の原理に関する考察

「成長」という言葉は日常の会話において広範に用いられ、誰もが馴染み深い単語として受け止めているように思われます。そして「成長」という言葉は概ね、肯定的な意義を含んだ善性の概念を指し示すものであると看做されています。 「成長」という概念の最も…

プラトン「パイドン」に関する覚書 3

引き続き、プラトンの『パイドン』(岩波文庫)に関する覚書を認めておきます。 この対話篇における議論の主要な眼目は「霊魂の不滅」を証明することにあります。ソクラテスにおいては、哲学的探究は既成の価値観や信条の尤もらしい権威を解体し、いわば探究…

焼亡する「美」のイデア 三島由紀夫とプラトニズム 3

引き続き、三島由紀夫の『金閣寺』(新潮文庫)に就いて書きます。 こういう少年は、たやすく想像されるように、二種類の相反した権力意志を抱くようになる。私は歴史における暴君の記述が好きであった。吃りで、無口な暴君で私があれば、家来どもは私の顔色…

恋愛の非対称性と「庇護」の欲望

一般に男女の関係は対等なものであるのが理想的な状態であると考えられ、両者の結合の最も象徴的な形態である「婚姻」においても、両者の対等な合意は、その成立の不可避の要件として日本国憲法に規定されています。 事実、婚姻関係においては、両者の対等な…

プラトン「パイドン」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの対話篇『パイドン』(岩波文庫)に就いて感想の断片を記録しておきます。 「パイドン」という作品において、プラトンの思想は重要な飛躍を遂げています。少なくとも初期の対話篇において見られたソクラテス的な哲学の精神は、ピュタゴラ…

焼亡する「美」のイデア 三島由紀夫とプラトニズム 2

三島由紀夫の「金閣寺」は、昭和二十五年に発生した、若い寺僧による金閣寺放火事件に題材を求めて執筆された作品です。三島の遺した数多の作品の中でも特に著名で、国際的な評価も高い傑作であると看做されています。実際、その作品を実地に繙いてみれば分…

焼亡する「美」のイデア 三島由紀夫とプラトニズム 1

私は一昨年の秋から今年の早春まで、ずっと三島由紀夫の小説ばかりを読む生活を送ってきました。それは結果的にそうなったということではなく、最初から意識的に樹立した計画に基づいていました。私は彼の小説の中では「金閣寺」に最も強く惹かれているので…

プラトン「パイドン」に関する覚書 1

プラトンの対話篇『パイドン』(岩波文庫)の繙読に着手したので、断片的な感想を記録しておきたいと思います。 プラトンの壮麗な思想の体系が、師父であるソクラテスの薫陶と、その不合理な刑死から受けた衝撃の裡に胚胎したことは揺るぎない事実であろうと…

プラトン「饗宴」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの対話篇『饗宴』(光文社古典新訳文庫)に就いて書きます。 「饗宴」におけるソクラテスと、ディオティマという謎めいた女性との含蓄に富んだ対話には、かつて「メノン」において取り上げられた「探究のパラドックス」との深い関連性を思…

プラトン「饗宴」に関する覚書 1

目下、絶賛繙読中のプラトンの著名な対話篇『饗宴』(光文社古典新訳文庫)に就いて、断片的な感想を認めておきたいと思います。 この「饗宴」という対話篇は、プラトンの文業においては中期の部類に属する作品と考えられており、実際に初期の対話篇(このブ…

普遍的な善性に就いて

「善」という概念は、倫理的な問題の範疇に属します。そして「倫理」という概念は本質的に「他者」の存在との関わりを巡る思考の過程で育まれるものです。他者の存在しない世界では、倫理という概念が重要な主題として人間の意識を占有することはないでしょ…

プラトン「ラケス」に関する覚書

プラトンの初期対話篇の部類に属する『ラケス』(講談社学術文庫)を読了したので、簡潔に感想を認めておきたいと思います。 プラトンの遺した数多の対話篇の中でも、その経歴の初期に綴られた幾つかの作品は、相互に類似した構成上の特徴を有しています。ソ…

「善の複数性」に関するノート

「善」という概念が「快」と混同されるのは、享楽主義の徴候です。けれども、あらゆる動物的存在が「快苦」の感覚的原理に支配され、導かれるようにして、己の生存を維持し、様々な行動に結び付けられていることも事実です。享楽主義への批判は、快楽に対す…

「享楽主義」に関する概念の整理

人間は誰しも「快楽」を求めます。無論、この「快楽」という言葉には極めて多義的な射程が備わっており、例えば「白いご飯が美味しい」という素朴な感覚的快楽から「憧れの美女を抱くことが出来た」とか「勤め先の権力闘争に打ち勝って絶頂に昇り詰めた」と…

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 3

享楽への根深い執着に依拠して生きる「ヘドニズム」(hedonism)との対決は、倫理学における重要な課題の一つである。ヘドニズムは「苦痛=欠乏」と「快楽=充足」との一体的な融合としての「欲望」に依存し、欲望の充足を通じて得られる刹那的な快楽の経験を…

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの対話篇『ゴルギアス』(岩波文庫)に就いて書く。 欲望は、苦痛と快楽の綜合によって構成されている。欲望が、その充足の過程において快楽の感覚を経験する為には、前提として苦痛の感覚の介在が要請される。何らかの欠乏が事前に生じて…

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 1

プラトンの対話篇『ゴルギアス』(岩波文庫)に就いて、感想の断片を認めておく。 様々な話柄を取り扱って絶えず流動的に舳先の方角を転変させ続けることは、この「ゴルギアス」に限らず、プラトンの書き遺した数多の対話篇の総体に共通する原理的な特徴であ…

プラトン「メノン」に関する覚書 4

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 メノンによって提示された「探究のパラドックス」を解決する為の処方箋として、ソクラテスは次のような考え方を表明する。 このように魂は不死であり、すでに何度も生まれてきており、…

プラトン「メノン」に関する覚書 3

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 この対話篇の中で、登場人物のメノンが提示し、ソクラテスが図式的に整理した「探究のパラドックス」に関して、断片的な思索を書き留めておこうと思う。 「人間には、知っていることも…

Cahier(哲学・偏向・単独性・固有性)

*賢くあろうと努める者は極めて安直に、理性に基づく必然性の認識という奇態な信仰へ呑み込まれる。理性によって現実の構造を正しく認識しようと試みるのは、殊更に批難されるべき謂れのない作業である。だが、そうした作業に何らかの倫理的な「価値」を見…

プラトン「メノン」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 「プロタゴラス」や「メノン」といった初期の対話篇において、「美徳アレテー」という観念の正体に関して繰り広げられる果てしない問答は、明確で完結的な解答に辿り着かない。恐らくプ…