サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

読書ノート

My Record of Reading about "The Old Man and the Sea"

英語学習の一環として繙読した Ernest Hemingway,The Old Man and the Sea,London,2004 について、感想の断片を認める。 邦訳を含めて、ヘミングウェイの小説を通読するのは今回が初めての経験である。私の英語力では、贅肉を削ぎ落とした緊密な文体と評され…

My Record of Reading about "Who Moved My Cheese?"

英語学習の一環として取り組んだ Spencer Johnson,Who Moved My Cheese?,London,1999 を読了したので、感想の断片を認める。 本書は二〇〇〇年に扶桑社から邦訳が出版され、日本国内でも累計四〇〇万部に達する売上を誇る、極めて華々しい数字に彩られた国際…

社会的盟約の擁護 ジークムント・フロイト「幻想の未来/文化への不満」 1

オーストリアの輩出した偉大な精神科医、ジークムント・フロイトの晩年の論文を収めた『幻想の未来/文化への不満』(光文社古典新訳文庫)に就いて、感想の断片を認める。 フロイトによって創始された「精神分析」(psychoanalysis)の壮大な体系は今日、数多…

「美徳/幸福」を巡る、華麗なる論争 ロレンツォ・ヴァッラ「快楽について」 3

十五世紀イタリアの人文主義者ロレンツォ・ヴァッラの著した対話篇『快楽について』(岩波文庫)を読了したので感想文を認める。 この対話篇の前半は、エピクロスの思想を信奉する登場人物ヴェージョによるストア学派の教説に対する論駁に充てられている。し…

「美徳/幸福」を巡る、華麗なる論争 ロレンツォ・ヴァッラ「快楽について」 2

十五世紀イタリアの人文主義者ロレンツォ・ヴァッラの『快楽について』(岩波文庫)と題された対話篇を巡って感想の断片を電子的画面に刻み込む。 ストア学派は如何なる外在的条件にも拘束されない不動の恒常的自己の確立を目指し、彼らの言葉でapatheiaと称…

「美徳/幸福」を巡る、華麗なる論争 ロレンツォ・ヴァッラ「快楽について」 1

目下、十五世紀イタリアの人文主義者ロレンツォ・ヴァッラの『快楽について』(岩波文庫)を繙読している。以下に、その感想の断片を認める。 ロレンツォ・ヴァッラが本書を著した意図は、当人の序文において明確に示されている。キリスト教の擁護とストア学…

内面的自由の保護 ジョン・ロック「寛容についての手紙」

十七世紀の暮れに西欧で出版されたジョン・ロックの『寛容についての手紙』(岩波文庫)を読了したので、感想文を認める。 私がこの書物を繙いたのは、その直前にルキウス・アンナエウス・セネカの『怒りについて』(岩波文庫)を読んだことが影響している。…

艱難と克己 セネカ「怒りについて」 3

古代ローマの文人政治家であったルキウス・アンナエウス・セネカの『怒りについて』(岩波文庫)の感想を書き留める。 本書の主菜に当たる「怒りについて」と題された書簡体の長文は、人間の懐く「情念」(affectus)の中で最も狂暴で醜悪な「怒り」の弊害に就…

艱難と克己 セネカ「怒りについて」 2

古代ローマの政治家であり哲人であったセネカの『怒りについて』(岩波文庫)を読む。 劈頭の「摂理について」に続けて収められた「賢者の恒心について」もまた、専ら「徳」に殉じて歩む賢者の清廉な生き方に対して、自然や社会が加える不正への懸念を取り扱…

艱難と克己 セネカ「怒りについて」 1

古代ローマの政治家であり哲人であるセネカの『怒りについて』(岩波文庫)を目下繙読中なので、覚書を認めておく。 本書の劈頭に収録された「摂理について」は、何故、正義を遵守する善人に対して種々の災厄が降り掛かるのか、という伝統的な疑念への応答を…

「意志」という名の欺瞞 ラ・ロシュフコー「箴言集」

十七世紀フランスの所謂「モラリスト」の一人として名高いラ・ロシュフコーの『箴言集』(講談社学術文庫)を読了したので、感想の断片を書き留めておく。 人間の生活や行動、歴史的な故事を調べて独自の知見を引き出すという著述の骨法は、特段モラリストに…

My Own Scarface 安部公房「他人の顔」

安部公房の『他人の顔』(新潮文庫)を読了したので、感想文を認める。 業務中の不慮の事故で顔面に深刻なケロイドを負い、自らの「容貌」を喪失した男が、精巧な仮面を作り上げて他者との関係の恢復を試みる「他人の顔」の筋書きは、如何にも安部公房らしい…

The Hopeless Obedience 安部公房「砂の女」

安部公房の長篇小説『砂の女』(新潮文庫)を読了したので、感想文を認める。 著者の代表作である「砂の女」の通読は概ね二十年振りではないかと思う。一度目は中学生の頃、父親の書棚に置かれていた函入りの初版本で読んだ。細部の記憶は曖昧だが、その息詰…

Urbanization and Logical Prison 安部公房「無関係な死・時の崖」

安部公房の短篇小説『無関係な死・時の崖』(新潮文庫)に就いて書く。 芸術的作品は、それが近代的個人の内面に根差していようとも、或いは国家を包摂する巨大な宗教的権威の反映であろうと、人間の個人或いは集団の描いた「幻想=妄想=fantasy」の表出さ…

政治的権威の「盗用/奪還」 坂井孝一「承久の乱」 3

引き続き、坂井孝一の『承久の乱』(中公新書)に就いて感想文を認める。 天皇家にとっては、中央集権的な統治の徹底は、自らの血統の繁栄を意味する。人臣が過剰な権勢を揮って国政に容喙することは、天皇家の権益に対する侵犯を意味するだろう。そもそも律…

政治的権威の「盗用/奪還」 坂井孝一「承久の乱」 2

引き続き坂井孝一の『承久の乱』(中公新書)に就いて、感想文を認める。 各地に蟠踞する豪族を折伏し、屈服させる為に、文明の先進国である中国唐朝から「律令」を輸入して、中央集権的な統一国家の樹立という壮大な青写真を描いたのが古代日本の姿であると…

政治的権威の「盗用/奪還」 坂井孝一「承久の乱」 1

坂井孝一の『承久の乱』(中公新書)を読了したので感想文を認める。 後鳥羽院と鎌倉幕府との間に勃発した中世期の大乱である「承久の乱」の経緯と構造の解明に焦点を当てた本書は、読者の精密で行き届いた理解を促す為に「承久の乱」のみならず、そこへ至る…

「中央集権」を拒絶する風土 佐藤進一「日本の中世国家」 2

佐藤進一の『日本の中世国家』(岩波文庫)に就いて書く。 治承・寿永の苛烈な内乱を経て東国に誕生した鎌倉幕府は、王朝期における官職の「家職化」という傾向の新たな展開、その画期的な帰結であると言えるだろう。天皇を頂点とする日本の国政の体系は、少…

「中央集権」を拒絶する風土 佐藤進一「日本の中世国家」 1

佐藤進一の『日本の中世国家』(岩波文庫)を読了したので、感想文を認める。 一応、通読は済んだとはいえ、律令制国家から室町幕府へ至る国家権力の構造の変遷を取り扱った本書は、私の如き歴史の初学者を念頭に置いて執筆されたものではなく、日本史に関す…

「権威/権力」の例外的統合 森茂暁「南朝全史」

俄かに歴史の勉強を思い立って、無きに等しい知識の培養と底上げを図り、日本史に関する解説書の類を渉猟している。いきなり古典や史書に挑むのは命知らずの蛮勇なので、成る可く分かり易いもの、素人でも辛うじて読みこなせるものを探している。 学生の頃、…

Digital Anxiety 安部公房「第四間氷期」

安部公房の長篇小説『第四間氷期』(新潮文庫)を読了したので、感想文を認める。 荒唐無稽の奇怪な設定を案出し、それによって我々の属する社会の日常的現実を宙吊りにしてしまう実験的精神は、安部公房の作風を成す顕著な特徴の一つである。無論、作家なら…

Fateful Damage 安部公房「けものたちは故郷をめざす」

安部公房の『けものたちは故郷をめざす』(新潮文庫)を読了したので、感想文を認める(註:当ページ下段に貼付したAmazonのリンク先は、今年刊行されたばかりの岩波文庫版)。 安部公房の初期の短篇小説に顕著に示されている非現実的で寓話的な作風は、この…

Sadistic Humor 安部公房「R62号の発明・鉛の卵」

安部公房の短篇集『R62号の発明・鉛の卵』(新潮文庫)を読了したので感想文を認める。 この短篇集には『壁』や『水中都市・デンドロカカリヤ』と同様に、安部公房の文業に特徴的な主題や要素が多彩な変奏を伴って象嵌されている。人間を動植物や機械と同列…

Politics and Cybernetics 安部公房「飢餓同盟」

安部公房の長篇小説『飢餓同盟』(新潮文庫)を読了したので感想文を認める。 この作品が「権力」や「革命」といった政治的な主題を取り扱ったものであることは鮮明な事実である。また、この作品を構成する説話論的な構造の中核に「人間レーダー」というサイ…

The Complex of Sadism,Aestheticism,Nihilism,Mysticism 三島由紀夫「鍵のかかる部屋」

三島由紀夫の短篇集『鍵のかかる部屋』(新潮文庫)に就いて、総括的な文章を書いておく。今までは個別の作品を一つずつ取り上げて論じていたのだが、余りに手間が掛かるし、短篇というものは或る程度、包括的な地平から眺めた方が、個々の作品の備えている…

権力・変形・寓話 安部公房「水中都市・デンドロカカリヤ」

安部公房の短篇集『水中都市・デンドロカカリヤ』(新潮文庫)を読んだので、感想文を認める。 同じ新潮文庫に収められている連作短篇集『壁』と同様に、この短篇集にも安部公房の生得的な主題やイメージが繰り返し変奏される形で集まっているように思われる…

変形・被害・同一性の剥奪 安部公房「壁」

安部公房の『壁』(新潮文庫)を読んだので、感想文を書く。 最近は半年以上放置して埃を被っていた自作の小説の続きを書くことに労力を費やしていて、読書ノートを書く時間が確保出来なかった。加之、創造することに夢中になると、分析することには余り食指…

冷笑・虚無・神秘主義 三島由紀夫「死の島」

三島由紀夫の短篇小説「死の島」(『鍵のかかる部屋』新潮文庫)に就いて書く。 この作品は「火山の休暇」及び「旅の墓碑銘」と共通する主役・菊田次郎の登場する物語である。菊田次郎は作者である三島由紀夫の分身と思しき芸術家であり、彼の経験と独白を借…

愛の破獄と、その蹉跌 三島由紀夫「果実」

三島由紀夫の短篇小説「果実」(『鍵のかかる部屋』新潮文庫)に就いて書く。 同性愛の女性カップルの悲惨な末期を描いた「果実」は、その全篇が不穏な臭気に覆われている。初期の作品とは異なる稠密で無駄のない硬質な文体は、三島の作家的成熟を濃密に実感…

権威・支配・悪徳 三島由紀夫「怪物」

三島由紀夫の短篇小説「怪物」(『鍵のかかる部屋』新潮文庫)に就いて書く。 我々は日常に「善悪」という珍しくもない定規を振り回しながら、互いの長さや形状が異なるがゆえに衝突や係争を繰り返し、様々な事柄に「善」や「悪」のラベルを貼付して、それぞ…