サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

読書ノート

プラトン「パイドン」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの対話篇『パイドン』(岩波文庫)に就いて感想の断片を記録しておきます。 「パイドン」という作品において、プラトンの思想は重要な飛躍を遂げています。少なくとも初期の対話篇において見られたソクラテス的な哲学の精神は、ピタゴラス…

焼亡する「美」のイデア 三島由紀夫とプラトニズム 2

三島由紀夫の「金閣寺」は、昭和二十五年に発生した、若い寺僧による金閣寺放火事件に題材を求めて執筆された作品です。三島の遺した数多の作品の中でも特に著名で、国際的な評価も高い傑作であると看做されています。実際、その作品を実地に繙いてみれば分…

焼亡する「美」のイデア 三島由紀夫とプラトニズム 1

私は一昨年の秋から今年の早春まで、ずっと三島由紀夫の小説ばかりを読む生活を送ってきました。それは結果的にそうなったということではなく、最初から意識的に樹立した計画に基づいていました。私は彼の小説の中では「金閣寺」に最も強く惹かれているので…

プラトン「パイドン」に関する覚書 1

プラトンの対話篇『パイドン』(岩波文庫)の繙読に着手したので、断片的な感想を記録しておきたいと思います。 プラトンの壮麗な思想の体系が、師父であるソクラテスの薫陶と、その不合理な刑死から受けた衝撃の裡に胚胎したことは揺るぎない事実であろうと…

プラトン「饗宴」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの対話篇『饗宴』(光文社古典新訳文庫)に就いて書きます。 「饗宴」におけるソクラテスと、ディオティマという謎めいた女性との含蓄に富んだ対話には、かつて「メノン」において取り上げられた「探究のパラドックス」との深い関連性を思…

プラトン「饗宴」に関する覚書 1

目下、絶賛繙読中のプラトンの著名な対話篇『饗宴』(光文社古典新訳文庫)に就いて、断片的な感想を認めておきたいと思います。 この「饗宴」という対話篇は、プラトンの文業においては中期の部類に属する作品と考えられており、実際に初期の対話篇(このブ…

プラトン「ラケス」に関する覚書

プラトンの初期対話篇の部類に属する『ラケス』(講談社学術文庫)を読了したので、簡潔に感想を認めておきたいと思います。 プラトンの遺した数多の対話篇の中でも、その経歴の初期に綴られた幾つかの作品は、相互に類似した構成上の特徴を有しています。ソ…

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 3

享楽への根深い執着に依拠して生きる「ヘドニズム」(hedonism)との対決は、倫理学における重要な課題の一つである。ヘドニズムは「苦痛=欠乏」と「快楽=充足」との一体的な融合としての「欲望」に依存し、欲望の充足を通じて得られる刹那的な快楽の経験を…

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの対話篇『ゴルギアス』(岩波文庫)に就いて書く。 欲望は、苦痛と快楽の綜合によって構成されている。欲望が、その充足の過程において快楽の感覚を経験する為には、前提として苦痛の感覚の介在が要請される。何らかの欠乏が事前に生じて…

プラトン「ゴルギアス」に関する覚書 1

プラトンの対話篇『ゴルギアス』(岩波文庫)に就いて、感想の断片を認めておく。 様々な話柄を取り扱って絶えず流動的に舳先の方角を転変させ続けることは、この「ゴルギアス」に限らず、プラトンの書き遺した数多の対話篇の総体に共通する原理的な特徴であ…

プラトン「メノン」に関する覚書 4

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 メノンによって提示された「探究のパラドックス」を解決する為の処方箋として、ソクラテスは次のような考え方を表明する。 このように魂は不死であり、すでに何度も生まれてきており、…

プラトン「メノン」に関する覚書 3

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 この対話篇の中で、登場人物のメノンが提示し、ソクラテスが図式的に整理した「探究のパラドックス」に関して、断片的な思索を書き留めておこうと思う。 「人間には、知っていることも…

プラトン「メノン」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの『メノン』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 「プロタゴラス」や「メノン」といった初期の対話篇において、「美徳アレテー」という観念の正体に関して繰り広げられる果てしない問答は、明確で完結的な解答に辿り着かない。恐らくプ…

プラトン「メノン」に関する覚書 1

プラトンの対話篇『メノン』(光文社古典新訳文庫)を読了したので、感想の断片を記しておく。 「メノン」は「プロタゴラス」同様、人間の「美徳アレテー」を重要な主題に据えた作品である。そして「美徳」は教えられるものなのか、仮にそうであるならば、何…

プラトン「プロタゴラス」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの『プロタゴラス』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 悪徳という概念は、何故か自明の事柄のように我々の生活の周辺を飛び交っているように感じられるが、その精密な定義を取り出そうと試みれば、断片的な知見が氾濫して認識の混乱を…

プラトン「プロタゴラス」に関する覚書 1

古代ギリシアの哲学者であるプラトンの『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)を読了したので、今度は同じ著者の『プロタゴラス』(光文社古典新訳文庫)に着手した。 現代的な日本語に即した、平明な訳文をコンセプトに掲げる光文社古典新訳文庫の一冊…

プラトン「ソクラテスの弁明」に関する覚書 2

引き続き、プラトンの『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)に就いて書く。 哲学的な探究は、何らかの具体的な知見や学術的な成果を獲得する為に行なわれるものだろうか。科学者が素粒子を発見し、医者がウイルスを発見するように、哲学者は何らかの知…

プラトン「ソクラテスの弁明」に関する覚書 1

ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)を読み終えたので、今度はプラトンの『ソクラテスの弁明』(光文社古典新訳文庫)に着手している。 エピクロスにしても、その思想的後裔であるルクレーティウスにしても、彼らが自らの思想を、真摯で綿密…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 6

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 エピクロス=ルクレーティウスの提唱する倫理学的な知見にとって、最も深刻な堕落と悪徳の種子となる危険を秘めているものは「欲望」と「恐怖」の二つである。「欲望」は、その…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 5

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 エピクロス=ルクレーティウスの信奉する宇宙論は、この世界の生成の合目的性を否定する。絶対的な存在としての造物主(神)が、何らかの青写真に基づいて、この宇宙を構築した…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 4

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 古代ギリシアの賢人エピクロスの思想を後世に伝えるルクレーティウスの貴重な詩文は、エピクロスの遺した厖大な著述(現代では、その過半は既に散逸して、我々の眼に触れる見込…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 3

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 古代から近現代に及ぶ人類の社会的な発展の過程は、専門的分業の発達の過程を同時に含んでいる。無論、小さな集団であっても、複数の人間の協調が存在する領域に、何らかの分業…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 2

引き続き、ルクレーティウスの『物の本質について』(岩波文庫)に就いて書く。 エピクロスの原子論は、従来の原子論に対して付け加えられた独自の創見である「クリナメン」(clinamen)即ち「原子の斜傾運動」によって画期的な意義を帯びたと一般に評価されて…

ルクレーティウス「物の本質について」に関する覚書 1

エピクロスの『教説と手紙』(岩波文庫)を通読した流れのままに、現在は古代ローマの詩人であるルクレーティウスの『物の本質について』(同上)の頁を少しずつ捲っている。 古代ギリシアで活躍したエピクロスの厖大な著述は、その過半が散逸したと言われ、…

エピクロス「教説と手紙」に関する覚書 2

引き続き、エピクロスの『教説と手紙』(岩波文庫)に就いて書く。 悪しき「享楽主義」(hedonism)という汚名を着せられたエピクロスの思想が、実際には極めて穏健な「節制」の規範に基づいていることは、彼の遺した著述の断片を徴するだけでも明瞭に汲み取る…

エピクロス「教説と手紙」に関する覚書 1

六日連続勤務の合間に、古代ギリシアの哲学者エピクロスの残存する著述と書簡を編輯した『教説と手紙』(岩波文庫)を読了したので、覚書を認めておきたい。 夥しい数の著作を遺しながら、その殆どが散逸してしまった紀元前の哲学者の文章が、曲がりなりにも…

バートランド・ラッセル「幸福論」に関する覚書 3

バートランド・ラッセルの『幸福論』(岩波文庫)を読了した。 非常に多岐に亘って「禍福」の原理を、具体的な実例と明快な考察と共に究明しているラッセルの「幸福論」の内容を、軽率で杜撰な要約に還元するのは適切でも生産的でもない態度である。けれども…

バートランド・ラッセル「幸福論」に関する覚書 2

引き続き、バートランド・ラッセルの『幸福論』(岩波文庫)に就いて書く。 人間が「幸福」という茫洋たる観念に就いて明瞭な視界を確保したいと望む場合、差し当たってラッセルの書物に含まれている記述を悉く点検すれば、その要求は見事に叶えられるのでは…

バートランド・ラッセル「幸福論」に関する覚書 1

セネカの『生の短さについて』(岩波文庫)を読了したので、今はイギリスを代表する思想家の一人に計えられるバートランド・ラッセルの著名な『幸福論』(岩波文庫)を繙読している。 「幸福」という観念は、極めて内在的なものであり、事物の表層だけを捉え…

セネカ「生の短さについて」に関する覚書 5

セネカの『生の短さについて』(岩波文庫)を読了した。 二千年前の著述が未だに「生」の現実に対する有効性を失っていない。その厳然たる事実に私は驚嘆せざるを得なかった。セネカは古代ローマの激動の時代を生き抜いた有能な政治家であり、その生涯を苛み…