サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

無意識の偽善者 三島由紀夫「絹と明察」 1

三島由紀夫の『午後の曳航』(新潮文庫)の再読を卒えたので、今は同じ作者の『絹と明察』(新潮文庫)という小説を読んでいる。 滋賀県彦根市に本拠を置く近江絹絲紡績という会社の労働争議(この会社は、今も商号を改めて事業を継続しているそうだ)を題材…

「少年性」の原理に基づく断罪 三島由紀夫「午後の曳航」再読 2

引き続き、三島由紀夫の『午後の曳航』(新潮文庫)に就いて書く。 今朝彼らは弁当を持って、神奈川区の山内埠頭まで出かけ、倉庫裏の引込線のあたりをぶらついて、いつものとおりの会議をひらき、人間の無用性や、生きることの全くの無意味などについて討議…

「少年性」の原理に基づく断罪 三島由紀夫「午後の曳航」再読 1

目下、三島由紀夫の『午後の曳航』(新潮文庫)を再読している最中である。未だ通読していないが、覚書を認めておこうと思う。 「午後の曳航」という小説は二部構成の作品であり、第一部の「夏」と第二部の「冬」との間には、明瞭な対照性が賦与されている。…

虚無と諧謔 三島由紀夫「美しい星」

三島由紀夫の『美しい星』(新潮文庫)を読了したので、拙い感想を書き留めておく。 死の臭気と濃密な官能の織り成す厳粛で陰惨な悲劇を描き出すことに長けた三島の文学的経歴の中で、荒唐無稽の絵空事の代表とも目される「宇宙人」や「空飛ぶ円盤」の登場す…

ニヒリズムと青春の終わり

世の中には「アイデンティティ・クライシス」(identity crisis)という言葉がある。主には思春期から青年期に至る期間に、つまり子供から大人へと変容していく過程において生じる心理的な不安定化や危機のことを指す概念であるらしい。似たような用語として「…

Cahier(弔事・歯車・遺された者たち)

*九月の一日に岳父が心臓を病んで急逝し、瞬く間に通夜と葬儀が営まれ、遽しい日々を過ごした。漸く人心地がついたところだが、妻の方は未だ相続の手続きやら四十九日の法要の仕度やらに追われて日々忙しく追い立てられている最中である。 結婚式ならば一年…

ニヒリズムの多様な範型 三島由紀夫「鏡子の家」 7

引き続き、三島由紀夫の『鏡子の家』(新潮文庫)に就いて書く。 ⑥「他者」の価値観に擬態するニヒリストの肖像 オカルティズムの深淵から感性的な現実の世界へ帰還した山形夏雄は、自分が陥っていた虚無の荒寥たる領域の消息に就いて語りながら、次のように…