サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

サラダ坊主風土記 「仙台・松島・塩釜」 其の五

円通院を見学した後、日暮れが迫ってきたので、我々はベビーカーを押し、トランクを引き摺って、海岸沿いの遊歩道を通って宿へ向かうことにした。途中、福浦島へ渡る朱塗りの大橋の入口を掠めた。妻に折角だから渡ろうかと誘われたが、疲れていたので取り止…

サラダ坊主風土記 「仙台・松島・塩釜」 其の四

我々は遊覧船の後方にあるデッキに立って、燃油の香りと強い潮風に包まれながら、曇天の松島湾を周遊した。生憎、娘は桟橋で乗船時刻を待つ間に眠ってしまった。混み合った空間で甲高く泣き叫ばないでくれるのは良いことだが、肝心のタイミングで寝入ってし…

Cahier(禅僧への憧憬・国宝「瑞巌寺」・金閣の俗臭)

*娘を寝かしつけて、夕飯の準備が整うのを待つ間、NHKの「日曜美術館」を漫然と眺めていた。番組の最後に流れる、全国の様々な展覧会の御報せの中に、「正受老人と白隠禅師」(飯山市美術館特別展)が混じっていて、眼を惹かれた。 私には美術に関する知…

サラダ坊主風土記 「仙台・松島・塩釜」 其の三

仙台旅行二日目の目的地は、日本三景の一つ、松島であった。 早起きしてホテルのビュッフェで朝食を取り、小雨の降り頻る街路を、仙台駅へ向かって歩いた。月曜日で、ホテルの前を行き交う人々は、休暇気分の暢気な我々とは異なり、足早に職場へ急いでいるよ…

「サラダ坊主日記」開設二周年記念の辞

毎年八月二十五日は、この「サラダ坊主日記」というブログの誕生日である。 saladboze.hatenablog.com saladboze.hatenablog.com 本日を以て、私の運営する零細ブログ「サラダ坊主日記」は開設二周年の節目を迎えた。二年間、あっという間に経過したという月…

サラダ坊主風土記 「仙台・松島・塩釜」 其の二

仙台市地下鉄東西線「大町西公園駅」までの道程は、有り触れた住宅街であった。少なくとも、千葉からの旅行者がわざわざ徒歩で徘徊する必要のある地域ではなかった。だが、そういう無意味な散策にも、旅行の醍醐味というものは潜んでいるというのが、私の予…

サラダ坊主風土記 「仙台・松島・塩釜」 其の一

昨晩、二泊三日の仙台旅行を終えて千葉へ帰ってきた。備忘録を認めておく。 仙台は、数年前に訪れた金沢と似通った雰囲気のある土地だった。江戸時代、雄藩として栄えた城下町としての歴史を持ち(加賀藩前田家の金沢城・仙台藩伊達家の青葉城)、文化的な成…

Cahier(カミュのヒロイズム・仙台旅行)

*先日、アルベール・カミュの「ペスト」を読んだ感想を記事に纏めて投稿したところ、以前から、そのブログを拝読させて頂いているid:filmreviewさんから、印象的なコメントを頂戴した。 私はカミュの「ペスト」を、ヒロイズムに対する否定の身振りとして捉…

「不条理」の困難な形象 アルベール・カミュ「ペスト」に就いて

先刻、アルベール・カミュの『ペスト』(新潮文庫)を読み終えた。 この作品を単純なヒロイズムの物語であるとか、或いは「不条理」に対する戦いの物語であるとか、そういう風に総括するのは、一見すると尤もらしいけれども、きちんと読めば、寧ろこの作品が…

Cahier(七十二回目の終戦記念日・「記録」の重要性・米国の年老いた戦闘機乗り)

*昨日は七十二回目の終戦記念日ということで、先の大戦に関連する報道番組が数多くテレビの画面に映し出されていた。夜にはNHKの総合テレビで「本土空襲」と銘打ち、太平洋戦争において米軍が展開した、日本に対する本土空襲の実態を解明するドキュメン…

Cahier(知識の偏り・詩作)

*銘々の人間が、個人的な興味を懐く対象というのは様々であり、同じ動物好きでも、犬好きや猫好きや鳥好きや熱帯魚好きなど、その愛情の矛先は多様な領域へ向かい得るものである。そういう関心の持ち方というか、精神的な志向性のようなものの偏り、特徴は…

詩作 「ホテル」

雨が上がった後の 夜の駅前は 艶やかな光に満ちている 無数のタクシーが列を作り 夥しい数の人間が 好き勝手な方向へ歩いている 私たちは 手をつないで 光の隙間を狙って 忍び足で進んでいく 知り合いにみつかったら 気まずいからね 西船橋の夜は騒がしい だ…

詩作 「新世界より」

壊れものをあつかうように 優しく指先に神経をそそいで 大事に守って 今日まで辛うじて 綱渡りには失敗せずに 来たつもりでした けれど やはり運命には逆らえないのでしょうか 掌中の珠 という表現があります そうやって大切に慈しんだとしても FRAGILEとい…

詩作 「削除しますか」

削除しますか(はい・いいえ) 躊躇は あなたを不幸にしますよ 過去は過去 あなたはいつまでも思い出を大事に抱きしめて その香りに顔を埋めているけれど 過去は過去 過ぎ去ったものたちは すでに命をもたない 振り返ることは あなたを不幸にしますよ 履歴を…

詩作 「勿忘草の歌」

若草の萌える平原 緩やかに流れる風の音 私たちは絶えず この大地と共に暮らしてきた この草原を渡る風の歌と共に 私たちの喜怒哀楽は 記憶の箱舟として 川面を漂いつづける 手をつないで 私たちは多くの街角を歩いた すべての街路には 思い出があり なにか…

詩作 「カッターナイフ」

それは無駄な 悪あがきというやつで 私はいつまでも 携帯が青く光るのを 唇をかんで待っている 鳴らない電話に 不意に光りと音が よみがえるのを 私は平凡な生活の 様々な場面で待っている あきらめられない魂が この胸の奥に いつまでも熱い光りをたたえて…

詩作 「国境線の突破」

金網越しに まぶしい太陽が見える 熱い風がカラダを包んではなさない 喉が渇いて死にそうだ 記憶が飛びそうだ この国境線の金網が いつまで経っても俺とあいつを隔て続けるんだ 車は大破してゴミの塊だ 眠れない夜はマリファナタバコが肺を焦がす ハンドルを…

詩作 「ワット・オーム・ボルト・アンペア」

稲妻がひらめく 暗い夕空を鉤裂きに 光りが渡る 突然の雨に慌てふためいて あなたは軒先に隠れる 何を売っているのだか知れない 個人商店の雨樋のおと 都会の孤独は深刻だ あなたはいつまでもそれに慣れることができない 迷宮のような地下鉄を乗り換えるとき…

詩作 「幸福な星の物語」

好きであることは 様々な苦しみを呼び寄せる 魔法のようなもので 私たちは時にその変動に戸惑う (好きであることは我々を混迷に導く) 私たちの感情は常に劇しいアップダウンをくりかえす 「さよなら」と「離れたくない」の はざまで 私たちは透明に呼吸し…

詩作 「スイッチ」

責めても無駄でしょう 誰かがそれに触れたのですから ブレーカーが落ちるように 使用量が容量を超えたのです あふれだしてしまったのです 覆水 盆に返らず 掌を返したように あなたは顔を背けます その横顔に 水銀灯の光がにじむ 心変わりという 美しい言葉 …

詩作 「親子」

それは 互いに分かり合えないものを指す 隠語です 憎しみの類義語です 友情の対義語です 友人はとりかえられる(しかも随意に) 腐れ縁は途切れない 古いゴムホースみたいに 民法的規定にこだわり続ける(旧弊) 女は捨てられるが(きちんと謄本に×がつく) …

詩作 「声が聴きたくて」

さびしいという言葉が 何故あるのか さびしいという感情が 何故あるのか ときに私たちは見失う 重力が 世界を地上に繋ぎとめるように 何かが私たちを 引き寄せあい 遠ざかることを禁じる さびしさの痛みが 胸の奥をえぐるとき 私たちは世界から浮き上がり 月…

詩作 「咆哮」

そのとき 不意に電車がとまり 私は世界の裂け目を 覗いたような気がした 普段と変わらぬ 午後の景色のなかに 変化が訪れた 線路は軋み 緊急の放送があらゆる場所で 白目をむいて 奏でられた 地球はいよいよ 終わりを迎えるのだろうか 電車の扉が開くまで時間…

詩作 「八月六日」

夏でした 地面には 陽炎が揺らぎ 私の自転車は じりじりと焼けて熱く 空は青く 何も過不足のない 輝くような夏の一日でした 空が不意に光り 熱い風が劇しい怒りのように 大地へ落下した 私はそのとき九つの少女で 私の自転車は買ってもらったばかりの 眩しい…

詩作 「悪意」

黄昏の校庭に 人影は乏しい 見捨てられた景色 見捨てられた時間 そして 見捨てられた私へ 熱いシャワーのように 降りそそぐ悪意 カッターナイフは スカートを切り裂く為のものではありません 絵の具は ブラウスを汚す為のものではありません 携帯のカメラは …

詩作 「苦しさの涯で」

テールランプが 紅くにじむ 喫茶店のガラスが 曇っている 待ち合わせの時刻の 少し前に プラットホームへ滑りこんだ電車の音が 天井を隔てて 伝わってくる わたしの胸は 予感にふるえる あなたの笑顔を 真新しいキャンバスに 美しく描きだす 逢いたいのは 虚…

詩作 「グレーゾーン」

夕闇は 音を立てない 無言で 一日の終わりの 疲弊のなかに 人々を佇ませる 昨夜 交わした約束は たちまち裏切られる 灰色の関係 灰色の距離 あなたは指折り数えている 幸福な未来が その小さな掌に 触れる瞬間までの 時間の長さ わたしは 一日の終わりの 疲…

詩作 「駅」

電車が 風を巻いてはしりこむ 線路からホームへ 舞い上がる冬の風と 人々のざわめき 夜は一目散に 闇へ溶けていく まだ帰りたくない まだ離したくない つないだ手を からめた指を まだ今は ほどきたくない 秒針が回る 黙々と 残酷に それまで他愛のない会話…

詩作 「しらない世界」

海原は 最果てをしらなかった どこまで 突き進んでも 終着駅は見つからない 明け方まで 浜辺で火を焚いて 酒を浴びていた 車座の男たちも 不意に遠い眼差しで 夜空を見上げた 北極星を 確かめるために あなたの本心が どの波間に揺れているのか 誰もしらない…

詩作 「秘密」

夜の闇に まぎれて すべて隠してしまいましょう 深夜の駅前の道を わたしもあなたも 靴音を殺して歩く 野良猫が 無数の敵意に身構えるように 露見することを おそれて わたしたちは綱渡りのように 夜の暗がりに爪先立つ 秘められた 感情が 少しずつ ビーカー…