サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

サラダ坊主風土記 「安房鴨川」 其の三

再び紀行文の続きを書く。 saladboze.hatenablog.com saladboze.hatenablog.com 総武線快速列車の直通運転の終着駅であり、一つの重要な「境界」である上総一ノ宮駅を出発すると、次第に車窓越しの景観は仄かな南国の雰囲気を知らぬ間に纏い始めた。その薄ら…

「検索不能」という価値

世の中、誰でも何でも分からないことはパソコンやスマホで手軽に「検索」して調べるのが当たり前になっている現代社会において、相対的に「検索出来ない情報」の価値が増大していくのは、考えてみれば至極必然的な成り行きである。誰かが「情報化」したもの…

「出生」と社会的合意

典拠が何だったか、具体的に思い出せないまま書くが、先日、2016年の日本における嬰児の出生数が遂に百万人を割り込んだという報道に接した。 少子高齢化が、成熟した、古びた国家である日本の「宿命」だという論調は長い間、私たちの社会における共通の…

人工知能は、書くことの秘儀を駆逐してしまうのか?

文章作成を主務とした人工知能(AI)が実用化され、色々な方面で活躍しているという。その記事作成能力は恐るべきもので、既定のテンプレートに厖大な情報を紐づけることで、客観的な事実を伝達する為の文章を瞬く間に書き上げてしまうらしい。文法的に精…

サラダ坊主風土記 「安房鴨川」 其の二

先日の記事の続きを書く。 saladboze.hatenablog.com 前置きばかり長くなって恐縮だが、自分の好きなように書かせてもらいたいと思う。海浜幕張駅から、京葉線を経由して外房線に乗り入れる特急「わかしお」に乗り込み、私たち家族は房総半島の南東部に位置…

サラダ坊主風土記 「安房鴨川」 其の一

会社から勤続十周年の御褒美に、公休とは別に十日間の連休を貰ったので、一月下旬から二月の頭まで働かずに過ごしている。こういう機会は滅多にあるものではないので、本当ならば一週間くらい遠くへ出掛けたいところだが、一歳未満の娘がいるので、そうした…

「存在しないものだけが美しい」という理念 1

「存在しないものだけが美しい」という理念の形態に就いて書いておきたい。 予め注意を促しておくが、この「存在しないものだけが美しい」という命題は万人に公認され、あらゆる場面に普く該当するものではない。広範な領域において確認し得る強力な思想の様…

「恋愛」の危険で純粋な形象 新海誠監督「君の名は。」をめぐる断想

幕張新都心のイオンシネマで、今更ながら「君の名は。」(新海誠監督)を観賞してきた。実に印象深く心に残った作品であったので、今更ながら感想を書き留めておきたい。 この作品は日本のみならず、国境を飛び越えて海外でも幅広く公開され、好評を博してい…

現実と幻想の抽象的接合 「千と千尋の神隠し」をめぐる断想

金曜ロードショーで、久々に宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」を再見する機会に恵まれた。改めて見直してみても、やはり「傑作だ」という素朴な感嘆と新鮮な興奮が生まれ、既に知り尽くしている筈の筋書きや一つ一つの場面さえ、少しも退屈な印象を齎さずに…

己の「無明」を悟るべし

新聞記事やテレビの報道番組などでも、よく見かける慣例の一つに、「破綻」という単語を「破たん」と表記する、というものがある。私はあれを眼にする度に何とも歯痒く、情けないような気分に陥ってしまうのだが、無論、あれは当用漢字という国家の指針を遵…

書くこと、紡ぐこと

世間が寝静まった夜に、こうやってパソコンに向かって当て所もなく文字の列なりを打ち込み続けるという奇特な習慣を己に課すのは、我ながら異様な振舞いだと感じない訳ではない。そもそも、黙々と文章を書き連ねるという行為、具体的な誰かに宛てた私信とい…

ファンタジーという言葉 3 (乾石智子という作家に関する覚書)

最近、乾石智子の「魔道師の月」(東京創元社)という小説を読んでいる。 私にとって、乾石智子の作品に触れるのは、彼女の処女作である「夜の写本師」(東京創元社)に続いて未だ二作目に過ぎず、この「魔道師の月」という小説も100ページほどを読み進め…

ファンタジーという言葉 2

或る意味では、どんな種類の文学作品もファンタジーの眷属なのだと強弁することは充分に可能である。どんな文学作品も、それが私たちの住まう外在的な現実の単なる引き写しに過ぎないということは有り得ないし、仮に有り得たとすれば、それは文学「作品」で…

ファンタジーという言葉

難しく考え始めたら際限がなくなる主題というのは、世の中に幾らでも転がっている訳で、言葉の定義なんかも厳密さを追求し始めたら、それこそウロボロスの如く出口の見えない無限の循環へ呑み込まれる結果に帰着しかねない。 ファンタジー、という言葉には、…

恩田陸「常野物語」

なるべく短く書こうと思っているが、実際に短く書けるかどうかは分からない。 私は恩田陸という作家が余り好みではない。尤も、私が読んだことのある彼女の小説は数えるほどで、恐らく彼女はどちらかと言えば多作の部類に含まれる書き手であろうから、そんな…

徒然なるままに

最近、以前に書き始めて暫く放置していた「ツバメたちの黄昏」という小説の続きを書くことに熱中している。いや、熱中と呼ぶには程遠い水準の熱量で書き綴っているのだが、その背景には、当て所もなく寄る辺ない雑文を草するばかりでは満たされない「己の内…

淡々とした空想紀行文の余韻 筒井康隆「旅のラゴス」

吉田健一の「金沢」を繙くことに飽きて、新たに筒井康隆の「旅のラゴス」という小説を読み出した。文頭から文末まで縦横に視点が入れ代わり、文意が宙吊りにされ続ける吉田健一の酩酊したような文章と比べると、随分簡潔で読み易いように感じられる。いっそ…

「サラダ坊主日記」新年の御挨拶(2017年)

新年明けましておめでとうございます。サラダ坊主です。本年も何卒宜しく御願い申し上げます。 クリスマス以来、大晦日、初売りと稼ぎどころの日々が続いて仕事が立て込んだ所為で、すっかり躰がボロボロになってしまった。官公庁は暮れの29日から正月休み…