サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

Cahier

Cahier(創造と管理)

*働きながら、日々考える。それが人間の普通の暮らしである。仕事というものは、殆ど総ての人間が関わりを持つ普遍的な営為で、その形態は歴史的状況や環境の強いる条件に応じて数多の変遷を重ねてきたけれども、それが人間の生存の中核を占めるものである…

Cahier(「共感」の超越)

*「共感」によって基礎付けられた紐帯は、狭隘な範囲に限って成立する。言い換えれば、感覚や思想や信条や文化に就いて、一定の同質性が保持されている領域においてのみ、辛うじて成立する危うい均衡の所産である。 この「共感」の最も典型的な実例は「家族…

Cahier(「配給品」の幸福)

*古今東西を問わず、多くの人間にとって「幸福に生きる」という主題は、重要で切実な意義を帯びている。人間は無意味な生に堪えることが何よりも苦手で、現実に対する自動的な適応に安住する動物的な生存の形式から絶えず逸脱している。 欲望を断ち切れば幸…

Cahier(未知なる誘惑者)

*人間の知的な好奇心は何によって煽られ、駆り立てられるのだろうか? 言い換えれば、我々の存在と精神を知的好奇心の情熱が刺し貫くとき、一体何が、そのような興奮を浮揚させているのだろうか? 何かを知りたいと熱烈に願うとき、我々が期待している「邂…

Cahier(批評家の欲望)

*また益体もないことを徒然に考えている。批評という営為が、何を欲望しているのか、という普遍性を欠いた設問が、脳裡を掠めたのである。 例えば性愛に就いて考えてみる。我々は愛する者から愛されたいという至極当然の感情と期待を有する。逆に言えば、愛…

Cahier(「明晰」と「迂回」)

*五月の末から、プラトンの対話篇の繙読を一時休止して、再び三島由紀夫の短篇を渉猟する旅路に赴いていたのだが、俄かに気が変わった。 先刻夕食を終えて、居間の壁際に置いてある新しい書棚に並べておいた、ドイツの哲学者カントの『啓蒙とは何か』(岩波…

Cahier(「共感」から「理解」へ)

*何かを「理解する」ということが、具体的に如何なる状況を指すのか、明晰に定義するのは容易ではない。だが、厳密な定義を下さずとも、漠然たる認識の輪郭の間を軽業師の綱渡りのように突き進んで、とりあえず思考を積み重ねていくことは出来る。厳格な定…

Cahier(記憶する愛情)

*例えばピアニストは素人と比べて、眼前に並ぶ黒白の鍵盤の組み合わせが、どれだけ多様な音律と響きを作り出せるかということに就いて、豊富な実践的知識を泉のように蓄えている。彼らは素人と比べて遥かに多くの深甚な理解を、ピアノという楽器に関して、…

Cahier(愛されることを願う生き物)

*「愛する」という言葉の定義は何時も抽象的で茫漠としていて、余りに雑多な行為や感情がその一語の裡に詰め込まれていて、偶に思い出したようにその正体を探ってみようにも、途方に暮れるのがお決まりの結末だ。 休日に掃除機を掛けながら、携帯にイヤホン…

Cahier(プラトンと「愛情」或いは「寛容」の問題)

*ここ数箇月、古代ギリシアの哲学者であり西洋思想の開祖にも位置付けられるプラトンの対話篇ばかりを読み続けてきて、知らぬ間に憤懣が溜まっていることに気付いた。 プラトンの思想は本質主義的な性質を持ち、究極的には「正義」を重んじて、人間を一定の…

Cahier(常に「此処」から始まる)

*人間は色々の先験的要件に規定されて人生を始める。誰も自分の意志で生まれるときや場所を選ぶことは出来ない。血筋も門地も性別も家産も、肌や瞳の色も、時代や国籍も任意に選択することは出来ない。出生は購買でも消費でもなく、ただ受動的に配給される…

Cahier(運命を嘲笑せよ)

*決定論の思想は、物事を因果律に基づいて如何にも鮮やかに綺麗に整序する。そうやって物事を遠く彼方の淵源から順番に連鎖させ、原因によって結果は必然的に決定されると看做す。それを別の言葉に置き換えれば「運命による支配」ということになる訳で、世…

Cahier(最善を尽くせ)

*纏まらない頭の中身を垂れ流すようにキーボードを打つ。 合理的な精神は、無理や無駄を嫌う。効率の悪いことを蛇蝎の如く忌み嫌う。最初から総て正解が見えていればいいのにと、不合理な現実の厄介な性質に歯咬みする。成程、最初から正解が分かっているこ…

Cahier(哲学・偏向・単独性・固有性)

*賢くあろうと努める者は極めて安直に、理性に基づく必然性の認識という奇態な信仰へ呑み込まれる。理性によって現実の構造を正しく認識しようと試みるのは、殊更に批難されるべき謂れのない作業である。だが、そうした作業に何らかの倫理的な「価値」を見…

Cahier(「包括的固有性」という概念)

*例えば一般的な男女の関係において、整った顔立ちや肢体、行き届いた気配り、陽気で楽観的な雰囲気、これら諸々の要素は、その人間の魅力を構成する因子として、重要な価値の源泉であると認められている。配慮に満ちて、如何なるときも弱音や悪口を漏らさ…

Cahier(成育・自我・素直)

*三月十五日を以て、娘が三歳になった。永いような、短いような、不思議な感覚に囚われている、と月並な科白を書きつけてみる。 新生児室のベッドに横たえられてすやすやと眠っている生まれたての娘の顔を、大きな硝子越しに眺めた記憶が、今でも鮮明に眼裏…

Cahier(運命・逆境・clinamen)

*エピクロスの原子論によれば、我々の住まう宇宙は、厖大な数の「原子」と無限に広がる「空虚」によって構成されている。そして「原子」の直線的な運動が、純然たる偶然に基づいて唐突に微妙な「偏差」を示すことによって、原子間の偶発的且つ相互的な結合…

Cahier(体罰・虐待・懲戒権)

*子供を寝かしつけた後、テレビのニュースを眺めていたら、政府が近年続発する児童虐待の防止に向けて、児童福祉法及び児童虐待防止法の改正案を纏めたという報道に偶然接した。同時に政府は法改正と併せて、民法に定められた「懲戒権」に就いて、五年間を…

Cahier(陶酔と狂気)

*「陶酔」(intoxication)という現象は、人間の生活の様々な局面において顕現する。それは現実に関する明晰な認識の消滅を意味し、理性的な自我の解体を齎すような経験の総称である。陶酔は様々な力によって齎される。アルコールやドラッグなどの薬物、スポ…

Cahier(「不機嫌な私」は他者に由来しない)

*人間は生きていれば些細なことで機嫌を損ね、刺々しい感情の虜に堕す。情緒が安定しているのが一番好ましく望ましい状態であることは理窟では弁えているのに、不機嫌に傾斜していく自分自身を押し留めようにも抑止出来ず、無意味な口論や意地の張り合いに…

Cahier(「奴隷」の道徳)

*人間は誰しも他者からの評価を気に病む。毀誉褒貶に一喜一憂し、自己の存在や行動を、多数派の他者が築き上げた普遍的な規矩に合致させることに、奇妙な社会的幸福を感受する。こうした他律的な生き方は、余りにも深く我々の魂を蚕食しており、それ以外の…

Cahier(「婚姻」の改革)

「婚姻」という制度を「離婚」という破局(如何なる正当な事由が介在していようとも、論理的に考えれば「離婚」が「婚姻」の失敗した形態であることは明白である)から救済する為には、「婚姻」に附随する様々な有形無形の義務を削減する以外に途はない。 「…

Cahier(三島由紀夫と「享楽」)

*セネカの『生の短さについて』(岩波文庫)を繙読していたら、次のような記述に逢着した。 しかるに、快楽は喜悦の絶頂に達した瞬間に消滅するものであり、それほど広い場所をとらず、それゆえ、すぐに満たし、すぐに倦怠を覚えさせ、はじめの勢いが過ぎれ…

Cahier(理性・激情・セネカ)

*この一年余り、ずっと三島由紀夫の小説を読んで、感想文を書き綴るという個人的な計画に邁進してきた。主に長篇の峻険な山脈を踏破することに照準を定め、初期の「盗賊」や「仮面の告白」から、長大な遺作である「豊饒の海」までを無事に読了し、今度は新…

Cahier(愛情と触知)

*人間は時々、自分が「動物」であることを忘れる。 或いは常に忘れて、稀薄な自覚の裡に眠りこけているのかも知れない。一般に誰も切り花を見たところで生命の残虐な形態に心を痛めたりはしないが、人間の生首を鼻先に突きつけられたら、余りの惨さに恐懼し…

Cahier(目的の正しさは、手段の正しさを論証しない)

*目的の正しさは、手段の正しさを論証しない。目的が正しければ、如何なる手段も自動的に無謬の正当性を賦与される訳ではない。この場合、我々は「正しさ」という言葉を倫理的な観点から捉えなければならないだろう。英語で言えば「right」と「correct」の…

Cahier(インフルエンザ・病苦・車谷長吉)

*二歳の娘からインフルエンザウイルス(A型)の御裾分けを頂戴したので、会社を早退して炬燵で暫く寝込んだ。インフルエンザを患うのは実に十余年振りの経験である。今もキーボードを叩きながら、蟀谷に疼くような熱の塊を感じている。さっさと寝てしまえ…

Cahier(「共感」の倫理学・「創造」の美徳)

*私は小さい頃から「文章を書く」という営為に対して特別な関心を懐き、拙劣な小説や詩歌の類を書き散らしたり、訳の分からぬ断片的な独白の文章を有り触れたノートのページに刻み込んだりする、奇妙に情熱的な時間を夥しく積み重ねて生きてきた。三十三歳…

Cahier(「固有的共生」と「機能的共生」)

*愛情という言葉は、誰もが自然な道具のように容易く滑らかに使いこなしているように見えるし、誰もが共通の感覚を指し示し、分かち合う為に、頗る流暢な発音で「愛」という単語を選択しているように感じられるが、それが果たして誤解ではないと言えるだろ…

Cahier(「顔」の見えない時代)

*最近、部下の男性社員が同棲していた年下の恋人と別れて、落ち込んでいる。尤も、私と同い年の男だから、子供みたいに陰鬱な雰囲気を職場で醸し出しているという訳ではない。仕事は仕事できちんと取り組んでいる。だが、茫漠たる寂寥や虚無の感情は如何と…