サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

Cahier

Cahier(「超越」と「虚無」に関する断片)

*三島由紀夫の文業を「プラトニズムとニヒリズムの相剋」として読解すること、これが近頃、私の脳裡を去来する個人的読解のプログラムである。 こうした見取り図は、決して私の創見ではない。近年では大澤真幸氏が『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書 2…

Cahier(半端者の感慨)

*小説を書いたり、読書感想文を書いたり、日々曖昧に道筋の揺れ動く暮らしである。小説を書き出すと、直ぐに自分の才能の乏しさに思い当って匙を投げたくなるし、読書感想文ばかり綴っていても、無益な抽象的遊戯に溺れているようで、気が滅入る。気に入ら…

Cahier(プラトンに関する断片)

*プラトンの哲学は、感覚的な認識の彼方に存在する事物の「実相」(idea)を把握することに至高の意義を見出した。それは感覚によって得られる諸々の認識が、宿命的な不完全さを内包している為に、決して事物の「実相」に到達し得ない構造的限界を孕んでいる…

Cahier(他者の精神を「読む」こと)

*小説を読みこなすこと、他人の拵えた精妙な綴織つづれおりのような文章を丁寧に読んで、その構造や絡繰からくりを見究めること、その難しさを日々手酷く痛感している。三島由紀夫の厖大な文業を渉猟する旅路に出掛けて早くも二年近い日月が経つが、理解は…

Cahier(批評家の仕事)

*過日、たまたま青空文庫で夏目漱石の「作物の批評」という古めかしい文章を読んだ。 漱石の文章は今から百年前に綴られたもので、しかも英文学と漢籍の分厚い素養がベースになっているから、現代の平均的日本人の眼には、如何にも堅苦しく難解な措辞のよう…

Cahier(恋情の力学・論客の実存)

*引き続き、バンジャマン・コンスタンの高名な恋愛小説『アドルフ』(光文社古典新訳文庫)を読んでいる。恋心という感情の力学的な構造を鮮明に描き出すコンスタンの筆致は、性急なほどに簡明で合理的である。この作品に備わった、身も蓋もない冷徹な大人…

Cahier(台風・人災・不測)

*昨夜は酷い雨風の音でまともに眠れなかった。夜中に雨戸の揺れる音と吹き荒ぶ風の唸り声で眼を覚まし、一旦は寝入ったものの、明け方に台風が千葉市へ上陸して、騒音で再び揺り起こされた。今まで経験したことのない激越な暴風雨である。電車は軒並み運休…

Cahier(雑文の区画整理)

*自作の小説を「カクヨム」に移管した上で続きを書いたり推敲したりしている関係で、このブログから小説作品と、それに関連する幾つかの記事を纏めてバッサリと削除した。合計すれば二〇〇件ほどの分量となる。随分とスリムな体形を恢復したような気分で、…

Cahier(作り出すこと / 元に戻すこと)

*最近は専ら「カクヨム」というサイトで、自作の小説を書き綴ることに熱中している。それ自体は案外愉しく、それなりに夢中にはなっているのだが、私の悪い癖で、時折虚無の隙間風が胸底を駆け抜ける。自分は本当に小説を書きたいと考えているのだろうか、…

Cahier(批評から創造へ)

*最近「カクヨム」というサイトに自作の小説を投稿している。今は未だ、書きかけのまま眠っていた作品を電子的な筐底から埃を払って取り出し、焼き直しに明け暮れている段階だが、在庫が払底すれば新たな作品を書く積りである。 不意に何故、小説を書くこと…

Cahier(宿命と覚悟)

*来月になれば、このブログを書き始めてから四年の歳月を閲することとなる。四年というのは案外大した長さではないかと思う。新生児と四歳児では、人間としての諸機能が段違いに異なる。新卒で入社した世間知らずの若人も、四年も働けば一応は一人前の面構…

Cahier(創造と管理)

*働きながら、日々考える。それが人間の普通の暮らしである。仕事というものは、殆ど総ての人間が関わりを持つ普遍的な営為で、その形態は歴史的状況や環境の強いる条件に応じて数多の変遷を重ねてきたけれども、それが人間の生存の中核を占めるものである…

Cahier(「共感」の超越)

*「共感」によって基礎付けられた紐帯は、狭隘な範囲に限って成立する。言い換えれば、感覚や思想や信条や文化に就いて、一定の同質性が保持されている領域においてのみ、辛うじて成立する危うい均衡の所産である。 この「共感」の最も典型的な実例は「家族…

Cahier(「配給品」の幸福)

*古今東西を問わず、多くの人間にとって「幸福に生きる」という主題は、重要で切実な意義を帯びている。人間は無意味な生に堪えることが何よりも苦手で、現実に対する自動的な適応に安住する動物的な生存の形式から絶えず逸脱している。 欲望を断ち切れば幸…

Cahier(未知なる誘惑者)

*人間の知的な好奇心は何によって煽られ、駆り立てられるのだろうか? 言い換えれば、我々の存在と精神を知的好奇心の情熱が刺し貫くとき、一体何が、そのような興奮を浮揚させているのだろうか? 何かを知りたいと熱烈に願うとき、我々が期待している「邂…

Cahier(批評家の欲望)

*また益体もないことを徒然に考えている。批評という営為が、何を欲望しているのか、という普遍性を欠いた設問が、脳裡を掠めたのである。 例えば性愛に就いて考えてみる。我々は愛する者から愛されたいという至極当然の感情と期待を有する。逆に言えば、愛…

Cahier(「明晰」と「迂回」)

*五月の末から、プラトンの対話篇の繙読を一時休止して、再び三島由紀夫の短篇を渉猟する旅路に赴いていたのだが、俄かに気が変わった。 先刻夕食を終えて、居間の壁際に置いてある新しい書棚に並べておいた、ドイツの哲学者カントの『啓蒙とは何か』(岩波…

Cahier(「共感」から「理解」へ)

*何かを「理解する」ということが、具体的に如何なる状況を指すのか、明晰に定義するのは容易ではない。だが、厳密な定義を下さずとも、漠然たる認識の輪郭の間を軽業師の綱渡りのように突き進んで、とりあえず思考を積み重ねていくことは出来る。厳格な定…

Cahier(記憶する愛情)

*例えばピアニストは素人と比べて、眼前に並ぶ黒白の鍵盤の組み合わせが、どれだけ多様な音律と響きを作り出せるかということに就いて、豊富な実践的知識を泉のように蓄えている。彼らは素人と比べて遥かに多くの深甚な理解を、ピアノという楽器に関して、…

Cahier(愛されることを願う生き物)

*「愛する」という言葉の定義は何時も抽象的で茫漠としていて、余りに雑多な行為や感情がその一語の裡に詰め込まれていて、偶に思い出したようにその正体を探ってみようにも、途方に暮れるのがお決まりの結末だ。 休日に掃除機を掛けながら、携帯にイヤホン…

Cahier(プラトンと「愛情」或いは「寛容」の問題)

*ここ数箇月、古代ギリシアの哲学者であり西洋思想の開祖にも位置付けられるプラトンの対話篇ばかりを読み続けてきて、知らぬ間に憤懣が溜まっていることに気付いた。 プラトンの思想は本質主義的な性質を持ち、究極的には「正義」を重んじて、人間を一定の…

Cahier(常に「此処」から始まる)

*人間は色々の先験的要件に規定されて人生を始める。誰も自分の意志で生まれるときや場所を選ぶことは出来ない。血筋も門地も性別も家産も、肌や瞳の色も、時代や国籍も任意に選択することは出来ない。出生は購買でも消費でもなく、ただ受動的に配給される…

Cahier(運命を嘲笑せよ)

*決定論の思想は、物事を因果律に基づいて如何にも鮮やかに綺麗に整序する。そうやって物事を遠く彼方の淵源から順番に連鎖させ、原因によって結果は必然的に決定されると看做す。それを別の言葉に置き換えれば「運命による支配」ということになる訳で、世…

Cahier(最善を尽くせ)

*纏まらない頭の中身を垂れ流すようにキーボードを打つ。 合理的な精神は、無理や無駄を嫌う。効率の悪いことを蛇蝎の如く忌み嫌う。最初から総て正解が見えていればいいのにと、不合理な現実の厄介な性質に歯咬みする。成程、最初から正解が分かっているこ…

Cahier(哲学・偏向・単独性・固有性)

*賢くあろうと努める者は極めて安直に、理性に基づく必然性の認識という奇態な信仰へ呑み込まれる。理性によって現実の構造を正しく認識しようと試みるのは、殊更に批難されるべき謂れのない作業である。だが、そうした作業に何らかの倫理的な「価値」を見…

Cahier(「包括的固有性」という概念)

*例えば一般的な男女の関係において、整った顔立ちや肢体、行き届いた気配り、陽気で楽観的な雰囲気、これら諸々の要素は、その人間の魅力を構成する因子として、重要な価値の源泉であると認められている。配慮に満ちて、如何なるときも弱音や悪口を漏らさ…

Cahier(成育・自我・素直)

*三月十五日を以て、娘が三歳になった。永いような、短いような、不思議な感覚に囚われている、と月並な科白を書きつけてみる。 新生児室のベッドに横たえられてすやすやと眠っている生まれたての娘の顔を、大きな硝子越しに眺めた記憶が、今でも鮮明に眼裏…

Cahier(運命・逆境・clinamen)

*エピクロスの原子論によれば、我々の住まう宇宙は、厖大な数の「原子」と無限に広がる「空虚」によって構成されている。そして「原子」の直線的な運動が、純然たる偶然に基づいて唐突に微妙な「偏差」を示すことによって、原子間の偶発的且つ相互的な結合…

Cahier(体罰・虐待・懲戒権)

*子供を寝かしつけた後、テレビのニュースを眺めていたら、政府が近年続発する児童虐待の防止に向けて、児童福祉法及び児童虐待防止法の改正案を纏めたという報道に偶然接した。同時に政府は法改正と併せて、民法に定められた「懲戒権」に就いて、五年間を…

Cahier(陶酔と狂気)

*「陶酔」(intoxication)という現象は、人間の生活の様々な局面において顕現する。それは現実に関する明晰な認識の消滅を意味し、理性的な自我の解体を齎すような経験の総称である。陶酔は様々な力によって齎される。アルコールやドラッグなどの薬物、スポ…