サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

恋愛の残酷な側面 レイモン・ラディゲ「肉体の悪魔」

レイモン・ラディゲの『肉体の悪魔』(光文社古典新訳文庫)を読了したので、備忘の為に簡潔な感想を記しておきたい。 ラディゲの仮借無い筆法が描き出す不倫の恋は、少しも甘ったれた感傷が滲んでいない。無論、描き出される登場人物の行動や感情の裡には、…

「サラダ坊主日記」開設四周年記念の辞

過日、八月二十五日を以て、この「サラダ坊主日記」というブログは開設四周年の節目を迎えた。 四年間も飽きずに、誰に求められる訳でもなく、雑多な文章を書き続けて電子の大洋へ垂れ流す日々を続けてきたのは、誠に好事家の奇習と言うほかない。その間に私…

Cahier(批評から創造へ)

*最近「カクヨム」というサイトに自作の小説を投稿している。今は未だ、書きかけのまま眠っていた作品を電子的な筐底から埃を払って取り出し、焼き直しに明け暮れている段階だが、在庫が払底すれば新たな作品を書く積りである。 不意に何故、小説を書くこと…

サラダ坊主風土記 「金沢・加賀温泉郷」 其の三

金沢旅行の二日目も、一帯は朝から非の打ち所のない快晴の蒼穹に恵まれた。ビュッフェ形式の在り来たりな朝食を済ませ、チェックアウトの手続きを終えて午前の戸外へ出ると、既に気温は三十度を超していた。燦然たる光に焼かれながら、地下道を経由して金沢…

「芸術」と「生活」のあわい / さかい 三島由紀夫「貴顕」

三島由紀夫の短篇小説「貴顕」(『真夏の死』新潮文庫)に就いて書く。 三島由紀夫は「作品」と「現実」との間に屹立する乗り超え難い隔壁の爆破を企図した作家である。その背景には、年来の課題であった「認識」と「行動」との二元論的対立の構図が控えてい…

機密と恐怖 三島由紀夫「花火」

三島由紀夫の短篇小説「花火」(『真夏の死』新潮文庫)に就いて書く。 この「花火」という小説は、所謂「怪談」の内幕を、脅かす側の楽屋から眺めるような造作になっている。尤も、この小説における「怪談」の被害者は必ずしも運輸大臣の岩崎だけに限られな…

サラダ坊主風土記 「金沢・加賀温泉郷」 其の二

金沢の「ひがし茶屋街」を訪ねるのは生涯で二度目である。浅野川に架かる大橋を渡り、古びた町家の建ち並ぶ路地を、日盛りの陽光に焼かれながら緩々と進んでいく。角を折れると、一寸した広場のような空間に導かれた。「箔一」という名の、金箔を用いた土産…

サラダ坊主風土記 「金沢・加賀温泉郷」 其の一

過日、妻子を伴って北陸の中心都市である金沢と、福井との県境に近い加賀温泉郷へ旅行したので、その見聞を備忘の為に記録しておきたいと思う。 我々夫婦が金沢へ赴くのは此度で二回目である。前回の旅行で金沢には好意的な印象を覚えていた。一回り縮約され…

「悲劇」の呼び声 三島由紀夫「真夏の死」

三島由紀夫の短篇小説「真夏の死」(『真夏の死』新潮文庫)に就いて書く。 この「真夏の死」という作品は、血腥い「死」と輝かしい「栄光」と激烈な「性愛」の三つの要素を緊密に結び付けた重要な短篇である「憂国」と並んで、三島由紀夫に特徴的なモチーフ…