サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

Cahier(宿命と覚悟)

*来月になれば、このブログを書き始めてから四年の歳月を閲することとなる。四年というのは案外大した長さではないかと思う。新生児と四歳児では、人間としての諸機能が段違いに異なる。新卒で入社した世間知らずの若人も、四年も働けば一応は一人前の面構…

「野心」と「幸福」の転轍 三島由紀夫「クロスワード・パズル」

三島由紀夫の短篇小説「クロスワード・パズル」(『真夏の死』新潮文庫)に就いて書く。 ホテルマンという職業と「愛慾」との間には、俄かに切り離し難い緊密な関係が存在する。例えば「ホテルに行く」という表現の裡には、情熱的な愛慾の陰翳が含まれている…

日常の「彼岸」に憧れて 三島由紀夫「離宮の松」

三島由紀夫の短篇小説「離宮の松」(『真夏の死』新潮文庫)に就いて書く。 退屈な日常への嫌悪、恐るべき倦怠への絶望的恐懼、これらの心理的現象は、如何にも三島由紀夫に相応しい主題である。延々と繰り返される単調な生活には、絢爛たる栄誉も残酷な悲劇…

Cahier(創造と管理)

*働きながら、日々考える。それが人間の普通の暮らしである。仕事というものは、殆ど総ての人間が関わりを持つ普遍的な営為で、その形態は歴史的状況や環境の強いる条件に応じて数多の変遷を重ねてきたけれども、それが人間の生存の中核を占めるものである…

「生成」と「実在」の協奏曲 三島由紀夫「金閣寺」

古代ギリシアの哲学者プラトンの書き遺した夥しい対話篇の数々を読んでから、改めて三島由紀夫の小説を断片的に読み返すと、様々な箇所に、プラトニズム的な認識の形態が挿入され、象嵌されていることに気付く。例えば「美しい星」に登場する円盤は、対話篇…

プラトン「国家」に関する覚書 9

プラトンの対話篇『国家』(岩波文庫)に就いて書く。 プラトンの強力な二元論的思考において、最も基礎的且つ重要な区分は「生成するもの」と「実在するもの」との峻別である。「生成するもの」は、我々の肉体的感覚を通じて把握される現象としての事物であ…

Cahier(「共感」の超越)

*「共感」によって基礎付けられた紐帯は、狭隘な範囲に限って成立する。言い換えれば、感覚や思想や信条や文化に就いて、一定の同質性が保持されている領域においてのみ、辛うじて成立する危うい均衡の所産である。 この「共感」の最も典型的な実例は「家族…

Cahier(「配給品」の幸福)

*古今東西を問わず、多くの人間にとって「幸福に生きる」という主題は、重要で切実な意義を帯びている。人間は無意味な生に堪えることが何よりも苦手で、現実に対する自動的な適応に安住する動物的な生存の形式から絶えず逸脱している。 欲望を断ち切れば幸…

プラトン「国家」に関する覚書 8

再び、プラトンの対話篇『国家』(岩波文庫)に就いて書く。 「国家」を読みながら、改めてつくづく思い知るのは、師父であるソクラテスの刑死が、プラトンの精神と思索に及ぼした影響の計り知れない大きさである。彼が「哲学者」の処遇に関して彼是と詳細な…