サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作

詩作 「祝詞」

今日は はじまりの一日 あふれる光とながれる風のなかで 空は透き通るように青く眩しい 私たちはこの場所に誓いのことばを刻みます 祈りが天に届くように 願いが世界を動かすように 今日は はじまりの一日 遠い日のあらゆる過ちを押し流して 優しい夢の揺籃…

詩作 「WORKING BLUES」

夜明け前に目覚めて 暗い商店街を駆けぬけ 始発の電車に飛び乗る ぼやけた視界に手を伸ばして 無意識に着替えたら くたびれたライブティーシャツだったけど気にしない どうせ今日も一日仕事 朝から晩まで東京駅のあなぐらで いらっしゃいませいらっしゃいま…

詩作 「はじまりの歌」

長い間 暗がりをさまよっていた どんな光も滲んで見えた 私たちの衰えた情熱 私たちの老いさらばえた理性 長い時間が過ぎていったあとの 沙漠で私たちは はじまりの合図を待っていた 何の? 自ら踏み締める一歩の深さ そこからはじめる以外に方法はないのに …

詩作 「日向へ」

光の射す場所へ 手をつないで走ろう 息を切らして 夢を見るように 僕たちは光の射す場所へ急ぐ 苦い日々が カレンダーを端から端まで染めている さあ つないだ手を強く握り返そう ここは生きるには暗く寒すぎる だから 新しい世界へ飛び立つんだ 終わりを迎…

詩作 「手当たり次第」

手を伸ばして 当たるを幸い 女を口説く そんなあいつに 君は見蕩れるのか 金歯がいくつもはまった虫歯野郎だ 相手にするだけ時間の無駄さ キスする度に腐臭がするぜ だけど君は聞いちゃいない 走り出したら止まらないんだ そういうものだからしょうがない 好…

詩作 「声が嗄れるまで」

伸び上がった背中に 指先でそっと触れた 振り返る前に 慌てて考える言い訳 どんな答えも一枚めくれば 言い訳と劣情に濡れている なんだよと向けられた瞳に 水たまりが映っている気がした あふれんばかりの 哀しみが鏤められた水たまり あなたは遠くへ 靴音も…

詩作 「金木犀」

静かに壊れていくものの 息づかい わたしたちに許された いくつかのみじかい祈り 大きな声で 嘆く天使 その痩せた肩胛骨 自分の姿を 鏡に映して 小さく笑った まるで現実のように 閉鎖された空間で わたしたちに認められた乏しい権利 切なげに微笑む夕暮れの…

詩作 「シルエット」

孤独な明け方の光 暁の街で 夜から脱け出した黒猫の影 天球儀の奥底で 二人は巡り逢いました なにかの間違いのように 触れ合った袖口 宿命という言葉を 古びた辞書から拾い上げる 黒革の財布から 美しい新札をとりだして 窓口へ出したら 役所の人は静かに首…

詩作 「桜貝」

海辺に 夢のかけらが 落ちていた 記憶の哀しいピースのように 私たちの暮らしの すみずみに転がっている 煮え切らない想いのように 春が来ても この海の冷え切った水面は融けない そのとき彼女はつぶやいた 私の愛した人は 冬が過ぎてもまだ帰らない あれか…

詩作 「冒頭」

風のなかで誰かが歌っていた 春の嵐が 都会の鉄道網をぞんぶんに掻き乱した ハレー彗星がもうすぐ地球に届く 総武線各駅停車は今 亀戸駅を発車したばかりです 強がって結局は 相手のなさけを欲しがっているだけ 理窟で割り切れるものを 拾い集める でも欲し…

詩作 「音を立てないでください」

無音の階段を夕陽が斜めにさえぎる 憂鬱な日には 憂鬱な長雨が降り 私たちを揺さぶる やがて 世界は暗色の外套を翻すだろう 静かに唇を重ねたときの 小さな 濡れた音 静寂が水晶のように劇しくふるえるので 私たちは舌を絡められない 音が立つから あなたと…

詩作 「ふたり暮らし」

空は青く晴れている 青葉が風に揺れている 遠い道を歩いてきた あなたの笑顔が 細胞のなかに折り畳まれている 通いなれた駅までの道を 二人で歩き始める 季節が変わり 風は柔らかく吹き寄せる あなたの苗字を 表札に加えよう ふたりで暮らすこと 真昼のあふ…

詩作 「うわべ」

うわべを重んじないのは愚か者です 人間は表面で出来ています だから皆 スキンケアにあれほど必死なんでしょう 潤んだ瞳が 誠実な言葉を簡単に踏み越える夜だってあるでしょう その睫毛も眉毛も芸術的に加工されていますよね 表面は大切です テレビなんて表…

詩作 「船出」

纜が静かにほどかれる 知らぬ間に 東の空の縁を 白く染めていく今日のひかり 船の帆がもうすぐ風をとらえる 貴方の心をとらえるように 世界はずっと暗い静寂のなかで 時を数えるばかりで 私たちはいつもこうして 冷え切った夜の揺籃に抱かれて 息を殺すよう…

詩作 「愛じゃない」

子曰く 愛に非ず 心の継ぎ目の淋しさを モルタルにて埋めんと欲す 子曰く 愛に非ず 性の快楽の欠乏を 能う限り低予算にて満たさんと欲す 子曰く 愛に非ず 金銭の不足に伴う諸々の不満を 他力にて解消せんと欲す 仁義礼智忠信孝悌 人が求めるものの核心は愛 …

詩作 「すれちがい」

その言葉には 多彩な意味が織り込まれている プラスマイナス 刻一刻と入れ替わるオセロのような磁石 睦み合う二人のあいだで 徐々に腐蝕していく絆のことを すれちがいと呼ぶこともある 忌まわしい呪文のように 別れ話の終止符に添えられる言葉 すれちがいが…

詩作 「師走哀歌」

透明な暮らしのなかで 札束を計えるように 過ぎた時間を秤にのせる 身を切るような年の瀬の風が 私の魂に蓋をかぶせる 着信はもう待たない メールを待ち侘びるのも止めた なぜならそれは 愛することとは無関係だから 焦がれるように想うことは 愛することと…

詩作 「INFINITE」

声が嗄れていた 言葉にならない感情が 次から次へと 押し寄せるので 波打ち際に立つ二人の背中は揺らいでいる 陽炎のなかで果てていく恋心の 粗末な墓標 もう一度愛しあいたい だけど愛するという言葉の定義は保留のままで 幸せになれるか分からない だって…

詩作 「台風一過」

劇しいスコールのような 一夜の嵐のあとで 朝方の駅へ向かう道は 晴れた空におおわれていた あらゆるものが 洗いたてのような美しさで 輝いている 僕はその朝 駅で君に会った 久しぶりに会った 久しぶりだったので驚いた 雨は明け方に止んだらしい 荒ぶる風…

詩作 「BUENA VISTA」

その馬は 私の息子と同じ年の 同じ日に生まれた 中山競馬場に足を運ぶ習慣が途絶えてから ずいぶん経って初めて知った 性別は違うけれど そもそも生き物の種類が違うけれど 私の息子は 北海道生まれの彼女のように 美しいフォームで 黒鹿毛のたてがみを風に…

詩作 「PASSIVE VOICE」

愛されることよりも 強く深い比重で 私のこころに迫るもの 静かな黄昏に あなたのこころを過るもの 手を伸ばして 指を開いて いつだってひたすらに求めていた 愛されることよりも 強く深い比重で 私を満たす 愛しさのスープ 階段をのぼるように 確実に私たち…

詩作 「そうやって少しずつ忘れていく」

そうやって 昨日が見えない場所へにじみながら消えていく たとえばフロントグラスを覆う夕立 たとえば明け方のベランダから見える朝霧の市街地 たとえばタバコの煙の向こうの君の微笑 たとえば削除したアドレスの複雑なアルファベット 初めて口づけたときの…

詩作 「着替えましょう」

着替えた 新しい服に 君に逢わなくなったから 今まで着ていた服を着る気がしない どの服にも想い出があり どの服にも 君の指紋がきっと残っているだろう 鑑識にしか分からない痕跡が 見え隠れする気がするから 古い服はクローゼットに封じこめて もう逢えな…

詩作 「MELANCHOLY」

要するに冷めた訳だ どんな秩序も エントロピーの法則に従って やがて崩壊に導かれていくものだから 別に不審には思わないよ 哀しくなんかないよ 涙は一つの生理現象であって 人格や内面とは関係がない だから電話が切れないのも俺のせいじゃない 騒めく胸が…

詩作 「砂漠」

砂嵐の吹く夜に 私は孤独の意味を知った 切り離されて在ることの冷たさを知った 月が明るく輝いている 私たちは生きることの 砂粒のような脆さに怯えている たとえば手を伸ばして掴もうとしたとき 残酷に振り払われたときの傷口が 今も紅葉のように鮮やかに…

詩作 「想い重ねて」

隔てられた距離が こんなにも果てしないせいで 僕たちはうまく 呼吸することさえ難しい いろいろなことが 障碍になって いつまでも繋がれずにいる 結び目が手荒くほどかれて 息がかかるほど傍にいた君が 無限に遠退きはじめる 一度は重ねられた掌 重ねられた…

詩作 「雨」

雨が降っていました 秋は徐々に冬へと近づいていく 窓際に置かれた花瓶のなかで 名前の分からない花がしずかに萎れていく 今夜はひどく冷える 秋の音階が冬の短調のなかへ融けていくように 買ったばかりの焦茶色のベルトの腕時計が 時間を刻む小さな音が聞こ…

詩作 「心拍数」

いつものように しゃべっていた 仕事終わりの 夜の休憩室で 古いテレビから 足摺岬を蹂躙する台風十号のニュース 暴風域は おそろしく広い だけど別に関係ないよな 膝を組んでタバコを吸ってた 缶コーヒーはもう温くなっている なにかしゃべっていて なにか…

詩作 「SOLID MIND」

夢うつつで生きていた 足もとは いつも宙に浮いていた 想いの強さが 物理的な現実から 私のこころを隔てていたのだ 夏は去り 秋が訪れる 蝉が死に 蟋蟀が啼き始める 慟哭のように おぼれられる限り おぼれていくような恋に その胸の苦しさに どんな必然を信…

詩作 「UNDERGROUND TRACK」

地下のホームで 久々にあなたを見かけた 一年以上経つだろう 人生八十年と仮定すれば 一年の歳月は 一瞬の泡沫にすぎない だけど ひとつの泡が生まれて弾けるほどの 短い季節の循環のなかでも 変わっていくものは ひどく大袈裟に 様変わりしてしまうのだ 記…