サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「盆燈籠」

夏の日盛りの空に
鮮やかな盆燈籠が突き刺さる
何回忌だったか
もう忘れてしまった
古びた日記帳のページを繰っても
ろくに思い出せないほどなのだ
盆燈籠は風に揺れ
やがて西の空から
夕映えが静かな跫音を響かせてくる

死者の御霊の
その言葉にならぬ騒めきに
私は何を以て答えればいいのか
紙屋町の雑踏に紛れて
滴り落ちる汗を手巾で拭い
私は死者の御霊の行方を密かに探っている
心当たりは失われてしまった
手垢に塗れた地図のインクは
すっかり滲んでつぶれている
読めない文字と記号の絡まりに惑わされて
乗り遅れた路面電車の背中が遠ざかる

蝉時雨の真下を
這うように
揺らめくように歩く
二人連れ
日傘の向こうに隠れた
その素顔を
誰がたずねられると言うのだろう
私は何も知らずに
繁華な街路の一角へ立ち竦んで
遠い昔の爆心地を眺めている
盆燈籠が眼裏に揺れている
いま
静謐と喧噪のあいだで
一つの劇しい真夏が音高く駆け抜けていく