サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

他者の不幸を歓ぶ者たち 1

連日、俳優の不倫に関する批判的な報道が巷間を賑わせている。世間で識者と目される人々が、様々な観点から道義的な批難を寄せている。当事者と直接的な関係を持たない市井の人々も、声高に不倫の罪を犯した男女の人格的な欠陥を論い、その精神的な未熟、道…

ジャン・ブラン「ソクラテス以前の哲学」に関する覚書 4

ジャン・ブランの『ソクラテス以前の哲学』(文庫クセジュ)に就いて書く。 古代ギリシアの思想的系譜や伝統的な世界観においては、宇宙は有限であり、万物は或る巨大な存在論的同一性の内部に包摂されている。時間でさえ、こうした観念に拘束されており、そ…

ジャン・ブラン「ソクラテス以前の哲学」に関する覚書 3

ジャン・ブランの『ソクラテス以前の哲学』(文庫クセジュ)に就いて書く。 ヘラクレイトスは一般に「生成」の哲学を語った人物であると論じられ、その思惟の方法はエレア派のパルメニデスと対照されることが多いけれども、実際にはそれほど単純な図式には還…

Cahier(信仰/理性)

*人間が何かに固執するとき、そこに働いている情念の形態や、それが形成された歴史的経緯は様々であるだろう。人間は頻繁に不合理な情熱に囚われるし、冷静に考えるならば不毛であると結論せざるを得ない明確な謬見に対して、服従の姿勢を解くことが出来な…

ジャン・ブラン「ソクラテス以前の哲学」に関する覚書 2

ジャン・ブランの『ソクラテス以前の哲学』(文庫クセジュ)に就いて書く。 ピュタゴラスを開祖とする一群の学統は、世界に内在する数理的な秩序への情熱的な信仰によって特徴付けられている。とはいえ、彼らは必ずしも世界の総てを均一な数値的基準によって…

ジャン・ブラン「ソクラテス以前の哲学」に関する覚書 1

ジャン・ブランの『ソクラテス以前の哲学』(文庫クセジュ)に就いて書く。 廣川洋一の『ソクラテス以前の哲学者』(講談社学術文庫)と同じく、古代ギリシアの思想史を扱った本書は、翻訳であることも手伝って、聊か難解な歯応えを強いられる。しかし、独特…

Cahier(transcendence,appearance,correspondence)

*未だ前途は遼遠で、理解の浅い事柄ばかりだが、哲学や思想に関する書物を渉猟する日々を過ごし、少しずつ、オリーブの搾油のように緩慢な速度で、知識の断片が累積し、それらが徐々に化学反応を示して有意な塊を析出しつつある。勿論、分かることよりも分…

廣川洋一「ソクラテス以前の哲学者」に関する覚書 4

廣川洋一の『ソクラテス以前の哲学者』(講談社学術文庫)に就いて書く。 古代ギリシャの思想史において、パルメニデスを開祖とするエレア派の理論が齎した衝撃は極めて甚大なものであっただろうと推測される。タレス以来の累代の賢者たちが専ら「自然=ピュ…

廣川洋一「ソクラテス以前の哲学者」に関する覚書 3

廣川洋一の『ソクラテス以前の哲学者』(講談社学術文庫)に就いて書く。 古代ギリシャを代表する思想家であり、所謂「哲学」(philosophy)の歴史の実質的な創始者と目されるプラトンは、自らの著述(対話篇「テアイテトス」)において、ヘラクレイトスの「万…

廣川洋一「ソクラテス以前の哲学者」に関する覚書 2

廣川洋一の『ソクラテス以前の哲学者』(講談社学術文庫)に就いて書く。 一般に「哲学」(philosophy)の誕生はソクラテス=プラトンの師弟に帰せられるが、当然のことながら、彼らの思想的な独創性が、如何なる伝統的基盤とも無縁に創発されたと信じるのは素…

廣川洋一「ソクラテス以前の哲学者」に関する覚書 1

比較的容易に手に入る限りでのプラトンの対話篇を一通り読み終えたので、目下、廣川洋一の『ソクラテス以前の哲学者』(講談社学術文庫)の繙読に着手している。 極めて断片的で通俗的な思い込みとして、所謂「哲学」の歴史は、古代ギリシャの賢人ソクラテス…

Cahier(古びた手帖)

*主に仕事の為に使っている手帖を、年が明けたので真新しいものに取り換えて、去年使っていた分は二階の納戸へ蔵った。そのとき、不図思い立って鞄や戸棚を漁ると、古びた手帖の束が姿を顕した。最も古い年度は2013年、私が未だ市川の店舗に在籍してい…

プラトン「ティマイオス」に関する覚書 4

プラトンの後期対話篇「ティマイオス」(『ティマイオス/クリティアス』白澤社)に就いて書く。 「ティマイオス」の後半における物質の組成に関する聊か煩瑣な議論は、プラトンの宇宙論と自然観が極めて宗教的で合理的な性質を孕んでいることを雄弁に物語っ…

プラトン「ティマイオス」に関する覚書 3

プラトンの後期対話篇「ティマイオス」(『ティマイオス/クリティアス』白澤社)に就いて書く。 「ティマイオス」の宇宙論において、プラトンは従来の「生成/実在」の理論的区別に加えて、第三の要素を導入する。「コーラ」(chora)と呼ばれる、その第三の…

プラトン「ティマイオス」に関する覚書 2

プラトンの後期対話篇「ティマイオス」(『ティマイオス/クリティアス』白澤社)に就いて書く。 「ティマイオス」の前半において語られるのは、宇宙の成り立ちに関する神話的な思弁である。感覚的な証拠に基づかない、純然たる「ロゴス」(logos)の論証的な…

プラトン「ティマイオス」に関する覚書 1

プラトンの後期対話篇「ティマイオス」(『ティマイオス/クリティアス』白澤社)に就いて書く。 「ティマイオス」は、プラトンの遺した夥しい著作の中で最も広範且つ深甚な影響力を発揮した書物であると言われている。四世紀ギリシャの天文学者カルキディウ…

「サラダ坊主日記」新年の御挨拶(2020年)

謹賀新年。毎度お馴染みサラダ坊主でございます。本年も何卒宜しく御願い申し上げます。 過去の慣例を顧みると、念頭には必ず気鬱な仕事の愚痴を垂れ流すのが常態と化していて、同じ芸を繰り返すのも進歩のない話だと思い、今年は余計な泣き言は控えておくこ…