サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

「明晰」の極限的形態 三島由紀夫「天人五衰」 3

三島由紀夫の『天人五衰』(新潮文庫)を読了したので、改めて感想の断片を認めておきたいと思う。 この「天人五衰」を以て掉尾を飾ることとなる厖大な「豊饒の海」の全篇は悉く、三島由紀夫という一人の異才の文豪が長年に亘って真摯な追究を重ねてきた、或…

「明晰」の極限的形態 三島由紀夫「天人五衰」 2

引き続き、三島由紀夫の『天人五衰』(新潮文庫)に就いて書く。 三島由紀夫にとって「美しさ」という或る感性的な基準は、個人の実存の総体を統括する重要な規矩であり、至高の基準である。「美しさ」は、その他のあらゆる社会的な価値を超越する重要性を認…

「明晰」の極限的形態 三島由紀夫「天人五衰」 1

目下、三島由紀夫の『天人五衰』(新潮文庫)を繙読中である。 「春の雪」及び「奔馬」においては、情熱と行為との密接に絡み合った実存の形態に主要な焦点が宛がわれていた「豊饒の海」であるが、第三巻の「暁の寺」以降は徐々に主題が「認識=理智」の領域…

美と芸術の蠱毒 三島由紀夫「暁の寺」 8

三島由紀夫の『暁の寺』(新潮文庫)を読了したので、余り整理の行き届いた内容にならない自信があるものの、一応は節目として総括的な感想を綴っておきたいと思う。 「暁の寺」に限らず、この長大な「豊饒の海」という物語の中心には二条の対蹠的な光芒が底…

美と芸術の蠱毒 三島由紀夫「暁の寺」 7

引き続き、三島由紀夫の『暁の寺』(新潮文庫)に就いて書く。 隣室の妻が寝静まってから、かなりの時が経った。本多は書斎の灯火を消し、ゲスト・ルームの壁ぞいの書棚へ歩み寄った。何冊かの洋書をそっと抜き出し、床に重ねた。彼が自ら客観性の病気と名付…

美と芸術の蠱毒 三島由紀夫「暁の寺」 6

引き続き、三島由紀夫の『暁の寺』(新潮文庫)に就いて書く。 芸術作品とは、時間の或る断面図である。滔々と流れ続ける無限に等しい時間性の或る特定の瞬間を切り取り、凍結させ、その細緻な構造を余すところなく明瞭に抽出し晶化させること、それが芸術と…

美と芸術の蠱毒 三島由紀夫「暁の寺」 5

引き続き、三島由紀夫の『暁の寺』(新潮文庫)に就いて書く。 これは漠然たる感想に過ぎないのだが、三島の「理想」を象徴するのが「春の雪」における松枝清顕や「奔馬」における飯沼勲であるとしたら、三島の「現実」を象徴するのは「暁の寺」において一挙…

美と芸術の蠱毒 三島由紀夫「暁の寺」 4

引き続き、三島由紀夫の『暁の寺』(新潮文庫)に就いて書く。 長大な「豊饒の海」の物語の劈頭から登場する本多繁邦は、第一巻「春の雪」及び第二巻「奔馬」においては、飽く迄も脇役の位置を堅持して、主役に当たる松枝清顕と飯沼勲の苛烈で絢爛たる「夭折…

美と芸術の蠱毒 三島由紀夫「暁の寺」 3

引き続き、三島由紀夫の『暁の寺』(新潮文庫)に就いて書く。 作中に登場するドイツ文学者の今西という奇妙な男は、本多繁邦の別荘開きの祝宴に招かれ、客人たちの前で自身の抱懐する「性の千年王国ミレニアム」に就いて長広舌を揮う。「柘榴の国」と名付け…