サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「言葉の音楽」

繰り返される
仕打ちに堪えかねて
わたしはいよいよ 決断を下した
或る悲愴な音楽の破片が
心臓へ次々に突き刺さる

記憶が重くきしみ
貴方の陰翳をいっそう深く色濃く彫り込んでいき
そして時間はただ ひたすらに垂れ下がっていき
眠りは浅く 夢の輪郭は薄くなり
時間の最果てに待ち伏せる誰かの
尖った靴音だけが響き続けている

わたしは貴方との結婚生活の
或る端的な破綻を
どんな日記帳にも 書き込もうとは思わない
古びた時代の 色褪せた謄本の代わりに
電子化された 滑らかな戸籍の
つまり情報化された戸籍の 冷やりとした表面から
貴方の存在を取り除いてしまいたい
窓辺に月明かりが流れ落ちて
時計の針が 逆走を始める

金属的な旋律に誘われて
何も分からぬままに 踵の高い靴をはいて
踊り出す 夜明けの光が窓枠を濡らすまでの間は
どんな日記帳にも 一切の痕跡を遺しておきたくない
死んだら それが遺言だと看做されてしまうから
それは不本意な成り行きに違いないから
わたしの命は常に
わたしの掌の温もりと深く強く結びついている

真実はいつも答えにはならない
むしろ それは出発のための 標識に似ている
そこから総てが紡ぎ出されていくための
透明な糸車のように
からからと 透き通った音をつらねる
私たちの過ちは
どこかのページの余白に
薄らと滲んでいるのかもしれない
それはもう 誰の眼にも映ることのない
退屈な落書のような存在だ

私たちは 擦れ違う列車の窓を隔てて
互いの行方を測りかねている
いったんドアが開いてしまったら
そのベルの鳴りやむ間際まで
息を詰めていたのなら
もうどうにも やり直せないのだ
破損した硝子の欠片の
正しい接合の仕方を誰も見定められないように
新たなる出発と その勇壮な旋律
間抜けな響きの喇叭
私たちの
それぞれに続いていく
果てしない人生の日々