サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「かくれんぼ」

隠れて
恋慕する
恋い慕う気持ちを静かに泡立たせる
君はあくまでも礼儀正しく
迂闊に踏み込んだりはしない
精妙に測られた
適切な距離のおかげで
視線が乱反射してしまう
何が真実なのか見えづらくなる
それが計算だと
決めつけるつもりもないけれど

君が見せる笑顔も
当たり障りのない冗談も
ほんのり香るアルコールの影響も
何もかも混ぜ合わせて
僕は一息に呑み込もうとする
抱えきれない言葉のいくつかを
無遠慮に鏤めてみたりして
静かに観察する
静かに距離を測り合う
東京タワーの橙色の明かりが
漆黒のアスファルト
道を刻む

どの角を曲がれば
この奇妙なバランスが変化するのか
次第に混み合っていく街路を
手を繋ぐタイミングさえ見失って
とりとめのない雑談だけで
なぜか決定打を欠いてしまう
君が敬語を崩さないからだろうか
その敬語の向こう側にある
生々しい鼓動の音だけを知りたいと願っているのに

酔いに任せて
奪ってしまった唇
柔らかい温もり
羞恥や疑念
僕たちの間の
掠れた双曲線
あと少しだけ
縮められたら
けれど
本当に触れてしまったら
失われてしまうものがある
積み重ねた歳月の隙間で
僕はうまく身動きがとれない

何が正論なのかは知っている
誰もが本来の幸福へ立ち戻れと
僕をはげしく説得するだろう
その叱声の予兆すら
この両耳に鳴り響いているというのに
本当は僕自身
気づいているのに
けれど
諦めなければならない理由が分からない
この生まれた感情の交錯の
美しく澄み切った響きを知りながら
ようやく手に届きそうな距離に訪れた
君の二つの瞳を間近に見つめながら
引き返す理由が
心を捕まえるはずもない

終わらない
かくれんぼに
いつか君が疲れてしまったら
そして
つないだ手を解くことに同意してしまったら
そういう陰気な夢想に
囚われない夜はないけれど
一瞬の過熱が
あらゆる懸念を揮発させる
この瞬間の目映い感情が
僕の背中に匕首を突き立てる