Cahier(繁忙期・「青の時代」)
*前回の更新から、思いの外、間が空いてしまった。
毎年、十一月の第三木曜日と定められているボジョレー・ヌーヴォーの解禁日辺りから、小売業の現場は俄かに忙しさを増し始める。特に百貨店は歳暮ギフトの早期割引で集客が上がり始めるし、十二月に入れば冬のボーナスシーズンだ。歳暮が終わる頃にはクリスマスが来て、それが終われば直ちに年末年始の買い物が始まる。光陰は矢のように足音高く過ぎ去っていく。
食品小売りの現場で働く私も、連日忙しく過ごしている。疲れが溜まって、唯でさえ乏しくなってくる睡眠時間を少しでも余分に確保して、明日の仕事に備えようと努めると、自ずと本を読んだり文章を書いたりする時間は削られることになる。
それでも、三島由紀夫の文業を集中的に繙読するという企ては、辛うじて続いていて、「盗賊」を読了した今は「青の時代」に着手している。実質的な処女長篇小説である「盗賊」に比べれば、文体の洗練と稠密は明白に、その水準を高めている。作品の前半は、主人公である川崎誠の生い立ちが綿々と綴られていく構成になっているのだが、その途上で早くも「自殺願望」に関する描写が現われたことに、私は如何にも三島的なニュアンスを感じ取らずにいられなかった。彼が繰り返し作中で言及する「自殺への衝迫」を鑑みれば、後年の割腹自殺に至る伏線は極めて明瞭に示されていたということになる。「自殺」に対する彼の執着は決して文学的な観念ではなかったのだ。或いは、単なる文学的な観念に過ぎないものを現実の人生において具体化してみせるところが、徹底的な「演技」への欲望を堅持した三島由紀夫という男の「凄み」なのだと、言い換えることも出来るかも知れない。