サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

サラダ坊主風土記 「千葉」(一日平均乗車人員数の比較)

 今日、JR千葉駅の真新しい駅ビルがオープンした。未だ実地には中身の作りを見学していないが、人伝に聞いた話では凄まじい人出で、午前中は入場制限が掛かっていたらしい。家の郵便受けに投じられていた広告を眺める限りでは、なかなか有名なブランドが揃い踏みで、駅に繋がっている分、利便性は高い。パルコも三越も消滅してしまった千葉駅周辺の状況を鑑みれば、恐らくかなりの集客が見込めるのではないだろうか。

 私は未だ千葉市民に転身してから一年と少ししか経っていない新参者で、千葉市とその周辺に余り馴染がある方ではないが、幕張出身で、私と同棲を始めるまでずっと幕張の実家に暮らしていた妻の話では、千葉駅は実に長い間、改良工事を行ない続けてきたそうだ。私は現在、千葉駅の近くに聳え立つ百貨店(ここまで書いたら直ぐに屋号は割れてしまうだろうが、一応伏せておく)の中のテナントで働いているが、昨年の春に配属の辞令を受け取るまで、千葉駅を利用した回数は十指に満たず、初めて降り立ったのが何時の出来事だったか明瞭に記憶していないが、そのときには既に工事の都合で駅舎の中身は一面、仮設の板壁で覆われてしまっていた。

 私にとっては、新規に開業したJRの駅ビルは紛れもない商売敵である。入居しているブランドの名前を眺める限り、北千住のルミネや柏のステーションモールが想起される。比較的若い年齢層の客を狙ったフロアの構成になっている。昨年11月の新駅舎・エキナカ商業施設開業以来、JRの巨大な計画が立て続けにその全貌を現しつつある。これは「斜陽産業」と呼ばれる百貨店にとっては深刻な打撃となるだろう。

 千葉駅というのは、地元の人間にとっては慣れ親しんだ施設であるが、縁遠い人にとっては概ね、関心の埒外に置かれている場所である。東京駅には誰でも足を運んだことがあるだろうが、千葉駅には特別な用事でもない限り、なかなか遠方から人は訪れない。無論、千葉駅は房総半島の玄関口としての機能を担っているので、内房線外房線総武本線成田線などの沿線に暮らす人々にとっては交通の要衝として重んじられているだろう。だが、例えば私はかつて長い間、千葉県松戸市に暮らしていたのだが、常磐線沿線に暮らす千葉県民にとって、千葉駅というのは全く無縁の場所である。わざわざ東武野田線やJR武蔵野線を経由して、千葉まで足を延ばす必要性は滅多に生じない。

 もっと言えば、私は幕張へ越す以前は津田沼に三年ほど住んでいて、津田沼から千葉までは総武線快速でたったの二駅の距離であるというのに、殆ど私用で千葉へ赴いた記憶がない。百貨店に用事があるならば、一つ隣の船橋駅に接する東武百貨店へ行く方が近いし、洋服や靴などを物色するならば、京成電車か、若しくは平和交通のバスに乗って、南船橋ららぽーとまで出掛けていく。わざわざ千葉まで足を運ぶことはない。その意味では、千葉市は孤立した状態に置かれているのである。

 そもそも、総武線の船橋や市川、或いは常磐線の柏や松戸ならば、東京は眼と鼻の先である。最先端のショッピングを望むなら、さっさと都心へ繰り出した方が遙かに話が早い。しかし、外房線内房線総武本線成田線の傍に暮らす人々にとっては、千葉が最も有力な買い物の候補となるだろう。千葉市に暮らす人々は東京まで気軽に出掛けるかも知れないが、例えば館山や鴨川、或いは君津や富津から東京まで行くのは、なかなか骨の折れる話であろう。

 過去の経験を振り返ってみたとき、私が個人的に興味深く感じるのは、総武線と常磐線の照応である。他愛のない戯言だと思って聞き流してもらって構わない。例えば、私が十年以上も暮らしていた松戸市は、江戸川に面しており、河を隔てた向こうは直ぐに東京都の下町である。この条件は、総武線における市川市と類似している。どちらも夏場に河川敷を利用して盛大な花火大会を催すところも共通している(しかも毎年、八月の第一土曜日に開催される点も同じである)。

 松戸にとっての最大のライバルであり、尚且つ若干競り負けていると内心で密かに感じているのは、隣の柏市である。松戸よりも東京から離れている、つまり「下っている」にも拘らず、松戸よりも柏の方が繁栄しているというイメージが強い。ウィキペディアによれば、駅の一日平均乗車人員数は柏の約19万人(JR・東武合算)に対し、松戸は約15万人(JR・新京成合算)と、やはり若干競り負ける結果となっている。

 松戸にとっての柏に該当するものを、市川の場合に考えるとすれば、恐らく船橋ということになるだろう。同じく駅の一日平均乗車人員数をウィキペディアから拾ってみる。船橋駅の約19万人(JR・東武合算)に対し、市川は他の路線への乗り換えが出来ない所為か、たったの6万人である。ちなみに都営線への乗り換えが出来る隣の本八幡駅は、9.6万人の乗車人員数を誇っている。両者を合算すれば、概ね松戸駅と同等の数値に達することが確認出来る。

 序でに常磐線と総武線を結び付ける大事な架け橋の役目を担っている武蔵野線に就いても確認しておこう。常磐線側の新松戸駅が3.8万人(乗車人員)に対し、総武線側の西船橋駅は、東葉高速東京メトロを除いたとしても13.6万人(乗車人員)、総てを合わせると、平成二十七年度の実績で約33万人という怪物的な数値を弾き出している。年間乗降客数は何と2億人を超えるらしい。

 それでは、我らが千葉駅の現況はどうなっているのか。多方面から電車が乗り入れるジャンクションとしての役割を担っていることを鑑みれば、相当な数値に達するのではないかと推測されるが、実際には千葉都市モノレールを含めても、11.6万人であり、柏にも船橋にも、松戸にさえも敗北を喫している。JR同士の乗り換えが多い為に、乗車人員への反映が小さくなってしまうのだろうか。

 ちなみに、千葉市花見川区幕張町に生まれ育った私の妻は、熱心な「国道14号原理主義者」であり、千葉街道以南の埋め立て地に広がる後発の美浜区が、メッセやマリンスタジアムを抱えている現実に胡坐をかいて、厚かましくも「幕張新都心」を詐称していることに以前から劇しい不満を訴えている。彼女に言わせれば、真の「幕張」とはJR幕張駅及び京成幕張駅の近辺を指すのであり、美浜区は飽く迄も「贋物」なのである。そこで愛妻家を自任する私としては、彼女の主張を裏付ける為に、関連する駅の一日平均乗車人員数を、ここに掲げておこうと思う。贋物の「幕張」の中心部に踏ん反り返って鎮座するJR海浜幕張駅の6.5万人に対し、JR幕張駅は1.6万人。何と、中央・総武線各駅停車の中では、最小の値であるという。あれっ?