サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「所有」

長雨に煙る空

遠くに光る

ビルの赤いランプ

十一月の街は少しずつ冷えていく

こころが少しずつ冷えるように

 

愛することと

支配することの間に

見いだせなくなった距離を

探し求めて

動く指先

 

誰かを所有すること

愛しいあなたを所有すること

所有することで

急速にひび割れていくこころ

夕焼けが残る空

後悔だけが

残る黄昏

 

失ってしまう怖さ

握りしめて

逃さないように

指先に力をいれた

とたんに

音もなく歪み

爆ぜるようにくだける

まるで蜉蝣のように頼りなく

繊細に仕立てられた

愛し愛されるこころ

 

わたしはあなたの所有物ではありません

そう物語る

一対の冷たい瞳

わたしは告発によって

己の罪にはじめて気づく

子どものように幼い

無知なこころで

何もかも野蛮に欲しがっていたのだと

 

逃げ出さないように

標本にする

ピンで留められて

もがくあなたは

少しも幸福そうに見えない

愛が凶器でありえることを

学ばずに

いつまでもわたしはおぼれていた

あなたを愛するこころにではなく

あなたを縛りつけようとするこころに

それを愛の証拠だと

思い込んで

 

間に合わなかった電車のように

あなたは遠くへ去ってしまいました

何度もあなたは停車して

待ってくれていたのに

怠惰なわたしは

あなたの控えめなアナウンスを聞きのがした

誰もいないプラットホームで

わたしは霧雨に濡れる

線路の行く手に

目を凝らしても

あなたの電車は

ふりかえらない

 

愛しさが

ナイフのようにひるがえる

さっと振り抜かれ

あなたの頬に

ひとすじの赤い線を走らせた

しかしもう

あなたの瞳は微動だにしない

あなたは知ってしまったから

わたしが正しい愛し方を知らないことを

愛することと

所有すること

その区別がつかないわたしに

あなたは失望して

背を向けた

黒ずんだブラッドガターのように血なまぐさい

傲慢な愛情に

いつまでも付き合っていられるほど

人生は長くない