詩作 「FATE」
声が聴こえない部屋で
黒い哀しみにおぼれていた
感傷は私たちの骨を着実に腐らせる
出逢うことと
別れることのあいだに
身を沈めて
私たちの生活は
冷たい波に洗われつづける
あなたの古い写真
まぶしく輝く初夏の風景
心変わりを思い返す痛み
せつなさ
運命の車輪が
空転する日曜日
定められた枠組みに
従いたいわけではない
それでも時には
思わずにはいられない
この関係には
運命の庇護がなかった
単なる一つの甘美な事故のように
伸ばした手と手が
絡まって
ほどけなくなっただけなのだと
ひさびさに開いた日記帳のなかに残る
失われた
たくさんの大切な想い出さえも
運命の庇護を持たない
孤独な二人の途切れそうな絆の痕跡のように
私の視界のなかで
青白くぼやけてしまいます
自転車のスポークを目で追うように
坂道をすすんでいく二人
風が吹けば
雨が降れば
雷が鳴れば
雪に閉ざされてしまえば
きっと二人は
つないだ手を放してしまう
きつく絡めた指先も
するりと抜けて遠ざかる
決して愛していなかったわけじゃない
だけど
その別離はきっと
出逢ったときからプログラムには書きこまれていたのだ
ここでいつか
さよならしましょうと
もしかしたら
生まれる前に
どこかで指切りしていたかもしれない二人
好きになって距離を縮めて触れ合って
ひとつになって
そして何かの拍子に
見えない分岐点を越えていたのだ
そこで別々の方角に足を向けてしまったのだ
あんなにも幸福だった日々が
夕立の景色のなかに霞んでいくように
その瞬間から
私たちは他人になった
神様の筋書きに基づいて
私たちは恋に落ちて
やがて別れた
だから哀しむことはないのです
永久に過ぎ去った後でも
幸福な記憶に偽りはないのですから
恨みも淋しさも
時間の流れのなかで静寂につつまれる
ここでいつか
さよならしましょう
だからそれまでは
本気で愛し愛されましょう
約束された別れは
愛することの障碍にはなりません
恋に落ちる急激な重力のはたらきに
抗う理由にはなりません
約束された別れまでの束の間を
はげしく求めあうことに費やして
ここにひとつ
終わった絆の墓碑が築かれる
死ぬことを約束されても
命が燃えて
きらめくように
いつか別れる定めであっても
あなたを想う
この感情は
マグネシウムのようにまばゆく
まっすぐに秋の夜空を飛翔していく