サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「はじまりの歌」

長い間

暗がりをさまよっていた

どんな光も滲んで見えた

私たちの衰えた情熱

私たちの老いさらばえた理性

長い時間が過ぎていったあとの

沙漠で私たちは

はじまりの合図を待っていた

何の?

 

自ら踏み締める一歩の深さ

そこからはじめる以外に方法はないのに

私たちは誰かの呼び声を暢気に待っていた

誰かが手を曳いてくれるだろうと

子供のような安易さで考え

うずくまっていた

何も始まらない世界の夜がしんしんと更ける

私たちは何も知らなかった

四方を取り囲む高い隔壁の

重苦しい溜息と威容のなかで

私たちは己の肖像にさえ眼を向けなかった

 

長い間

ベッドの上で

私たちは寝返りを繰り返した

輾転反側五里霧

終わらない苦悩

降り止まぬ雨

明けることのない夜

息衝くのは憎しみだろうか

それとも哀しみだろうか

やがて世界が変わることさえ信じなかった

洞窟に似た絶望の奥深く

指先がちりちりと痛む

静電気の

哀しみのなかで

私たちは

はじまりの合図を待っていたのかもしれない

しかし 何の?

 

答えを出すことが怖かった

答えが出れば

否応なくそこからはじめるしかないから

間違いを正して

精密な海図を卓子に広げる

答えはどこに隠されているのか

譫言のように

貴方はつぶやく

 

けれど

もう暗がりに立ち止まるのは終わりにしよう

繰り返される無力な過ちに

引き摺られないように

私たちは長い間

答えを出すことをためらっていた

その先に訪れる苛酷な現実に

怯えるあまり

しかし私たちは

本当は答えを知っていた

答えはいつも問いかける場所に埋もれているから

答えはいつもこの視界を掠めているから

これが辿り着いた答えならば恥じることはない

さあ はじまりの合図だ

すべての終わりを告げる調べが

私たちの新たなはじまりの号砲だ

 

自ら踏み締める一歩の深さ

そこからはじめる以外に方法はない

物語はつねに目覚めることを望んでいる

離れ離れになった二人の靴音が

街路に甲高くこだまする

はじまりの歌を奏でよう

はじまりの歌をうたおう

自ら踏み締める一歩の深さで

この泥濘んだ雨上がりの道を駆けだそう