サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「ワット・オーム・ボルト・アンペア」

稲妻がひらめく

暗い夕空を鉤裂きに

光りが渡る

突然の雨に慌てふためいて

あなたは軒先に隠れる

何を売っているのだか知れない

個人商店の雨樋のおと

 

都会の孤独は深刻だ

あなたはいつまでもそれに慣れることができない

迷宮のような地下鉄を乗り換えるとき

あなたはいつも後ろを振り返って

息を殺した刺客をさがす

行方の知れない電車に乗って

あなたはガラスに頬をはりつける

夕立は劇しく

側溝は泥水で濁っている

 

この広すぎる世界で

あなたの願いはたったひとつ

叶えられない願いがひとつ

その美しい唇で

呪文のように願いを唱える

 

どこにいるのでしょうか

わたしはだれをさがしているのでしょうか

降りやまない雨

途方に暮れた顔で

あなたは呟く

 

そのときわたしはあなたと初めて眼が合った

いやほんとうは初めてではなかったけれど

そうやってまっすぐに視線がぶつかるのは初めてだった

電流が空を劈いた

雨音が消えた

電車の騒音も

人々の溜息も

停電のように鮮やかに消えて

思わず伸ばした手に

あなたの冷えた頬が触れた

 

心臓が走り出したように強く脈打つ

カラダのなかの空気があふれそうになる

ねえ前からこうなりたかったんだよ

隠して抑えて殺していたけれど

唇は霧雨に濡れている

準備は整っていた

愛することがわたしのなかで急に音を立てて重みを増す

サイドブレーキは壊れた

ラクションが鳴りひびく

混みあう横断歩道のまんなかで

わたしのココロが

あなたのカラダにようやく追いついた