サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

サラダ坊主風土記 「花見川」

 先日の休みに、用事があって妻と娘と共に区役所へ行った。天気が良かったので、少し風は冷たいが、自転車で行った。京成とJRの線路を渡る地下道を潜り、税務署の近くのステーキハウスで遅めの昼食を取ってから、平坦な道を走って、花見川を越えた。

 用事自体は直ぐに済んだので、少し遠回りして帰ろうということになった。区役所の傍を流れる花見川に沿って、サイクリングの為に整備された道路が続いている。私たちは大した目的も持たずに、川沿いの道を走り出した。空には仄かに霞がかかり、鮮やかな午後の太陽の光をぼんやりと鈍らせていた。

 再び電車の高架を潜り、国道十四号線を越えて、当て所もなく真直ぐな舗道を疾駆する。食欲を満たされた娘は、自転車の振動に甘く刺激されて、荷台の椅子に座ったまま、眠りに落ちてしまった。右手の方角には、海浜幕張のビル群が見渡せる。花見川の流れに沿って、高層マンションが幾つか並んでいる。

 ずっと走り続けるうちに、河口を渡る陸橋の下から、海の青い影が見え隠れするようになった。この舗道が何処まで続いているのかも分からないまま、私たちは走り続けた。工場なのか、入り組んだ配管の塊のような建造物をフェンス越しに眺めながら角を曲がり、堤防の高台へ登る。一面の海原が、生温い陽光を浴びて、白々と輝いている。鮮やかな紺碧の海ではない。灰色と藍色の中間で、静かに時間の経過を計えているような顔つきの海面だ。咄嗟に私は、新潮文庫版のアルベール・カミュ「異邦人」の表紙を思い出した。アルジェリアの海のように、劇しい目映さを持たない、温度を下げた稲毛の浜辺である。

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 暫くの間、懶い海の眺望に見蕩れた後で、私たちは海沿いの道を走り、美浜大橋を渡って(妻曰く、地元では「ナンパ橋」と呼ばれているらしい。美しい夕暮れの海景が眺められるそうだ)海浜幕張へ向かった。スターバックスアールグレイのフラペチーノを呑み、陽の翳り始めた肌寒い家路を辿る。今日も一日が静かに終わっていく。

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)