サラダ坊主日記

「この味がいいね」と君が言ったのはお世辞だったねサラダ記念日

詩作 「砂漠」

砂嵐の吹く夜に

私は孤独の意味を知った

切り離されて在ることの冷たさを知った

月が明るく輝いている

私たちは生きることの

砂粒のような脆さに怯えている

たとえば手を伸ばして掴もうとしたとき

残酷に振り払われたときの傷口が

今も紅葉のように鮮やかに燃えながら開いているのだ

 

生きることは切なさの連続

生老病死

何より愛別離苦

蝋燭の灯影のように儚く揺めいて

盆休みの東京駅で

私はあなたの長く伸びた影を見失う

 

砂嵐の吹く夜に

私は欺瞞を知った

愛し愛されることの幻のような美しさに

酔い痴れていたせいで

私はいくつもの平凡な真理を見落としていた

たとえば自分の足で立って歩くことの尊さとか

社会から切り離された渓谷のような時間を持つこととか

自分の心を見つめ直すこととか

あなたに振り回されて

当たり前の事実に背いた私の顔

 

ときどき分からなくなる

自分が生きていることの意味が

もちろん意味は確かな形で存在するとは限らない

いろいろな偶然に

枯れ葉が風に舞うように導かれ

もてあそばれて

運命の矢印の示す場所へ

ある日ふわりと着地する

それが物語の始まりだったと

何年も経ってから気づかされるのだろう

十年前の探し物が不意に箪笥のうらから転がり出た瞬間のように

私は目薬を注されたみたいに気づかされる

視界がにわかに明るくなり

私はここが自分の生きるべき場所だという

確信に揺さ振られる

だが

そこへ到る道のりは長く険しい

寒風は常に私のカラダを焼きつづける

あなたがいなくなった後の荒廃を

私の魂はもう

痛みとして認知しない

許し合えない二人に

最初から未来など約束されていなかったのだ

さようならという言葉さえ惜しいほどに

私は吝嗇な人間になった

別にあなたを憎むつもりはない

過ぎ去った麗しい記憶の連なりに

その清らかな地層に

手を差し伸べることに飽いてしまっただけだ

 

砂嵐の吹く夜に

私は舗装されていない道を歩きだす

標識も信号もない一面の砂漠を

私は自分の感覚だけを松明に代えて

しずかに歩きはじめる

どちらを向いても広がっている

荒れ果てた

似通った景色

北極星のようにかつては確かであると思われたあなたの影も

この暗い砂漠では探しようがない

さようならという言葉にはウンザリだ

あなたの道はあなたが勝手に選んで決めればいい

私はこの広大な砂漠の彼方に手懸りをさがす

愛別離苦という言葉が頭のなかを駆け巡る

それでも構わない

孤独な旅路の果てに

私はもう一度愛する何かに巡り逢うのだから